ユーザがベンダを裏切る例は多い
正式な契約がなくても、自分達が作業していたことをユーザは黙認していたのだから事実上、契約はあった。それを勝手に反故にしたユーザには損害賠償義務があるというベンダと、正式な契約がないのだから一方的な契約解除にはあたらず損害賠償義務などない、とするユーザ。裁判所は、これについて、仮に正式な契約書がなくてもベンダが後続工程の作業を行っていることを黙認したユーザの態度はベンダに追加発注を期待させるもので、突然、別のベンダに依頼したことは「ユーザの信義則違反」にあたるとして、ユーザに損害賠償を命じました。
たとえ正式な契約書がなくても、事実としてユーザに作業をさせていれば、実質的に契約を結んだのと同じことだというわけです。こうした例は、他の裁判の例でも見受けられ、判決内容から見てもこのあたりの裁判所の判断は似たような結果になることが多いようです。
裏切るつもりはなくても、「甘い期待」がプロジェクトの失敗を生む
さて、今回ご紹介する事件も、契約なしにベンダが作業を開始してしまったという点では同じです。ただ、少し違うのは、ユーザ側も当初はベンダに作業を依頼する気があったということです。4月21日の判決の場合は、ある意味、ユーザの悪意を感じる部分もありますが、今回の件のユーザの場合、ただベンダの提示金額が高すぎるからなんとか値引いてもらおうと交渉をしたがうまくいかなかったというものです。それでも、やはり、ユーザは信義則違反となるのでしょうか。判決文から、まずは事件の概要を見てみましょう。
(東京地方裁判所 平成24年4月16日判決より)
健康教育・疾病予防等の事業を行う財団法人(以下 ユーザ)が,新健診システム・生涯健康データベースシステム(本件システム)を開発する業者選定のためにRFPを提示し,あるソフトウェア会社が、開発ベンダとして採用された。
スケジュールの関係もあり、ベンダは、正式な契約を待たずに作業を開始し、ユーザも、これに協力したが、契約については、ユーザ側からの見積もり要求をベンダが受けられないことから、いつまで経っても締結することができずにいた。
それでもベンダは作業を継続していたが、結局、金額面の溝は埋まらず、最終的には、ユーザ側からベンダ側に契約締結ができない旨を通知した。
ベンダは、これは、実質的にユーザからの一方的な契約解除であるとし、自分たちには非がないことも主張しながら、約9000万円弱の損害賠償請求をユーザに行い、裁判となった。