複雑すぎるアメリカの保険制度、オバマケアはどう改革しようとしたか
日本にいるとアメリカのオバマケアの複雑さはなかなか理解しがたい。日本では皆保険制度があり、医療費の自己負担割合が定められている。基本的に健康保険証さえあれば、病院で医療費を全額払う必要はない。だからあまり経済的な心配をせず、病院に行くことができる。
ところがアメリカでは基本的に日本でいうところの自由診療となる。高額な医療負担を回避するために、それぞれが何らかの民間医療保険に加入している。しかし経済的な事情で無保険者が年々増加し、医療費が原因の破産が増えるなど社会問題化していた。
そこでオバマ前大統領は医療保険改革を掲げ「オバマケア」を実現した。正式な法律名は「患者保護及び医療費負担適正化法(Patient Protection and Affordable Care Act of 2010)」。オバマケアにより、無保険者の多くが手頃な価格の民間医療保険に加入できるようになり、無保険者が徐々に減りつつある。
メディケア・メディケイドセンター情報サービス 前副最高情報責任者 兼 副ディレクター ヘンリー・チャオ氏はオバマケアを「アメリカ史上、最も複雑な保険制度」と言う。チャオ氏は長らく保険福祉省にて、公的医療保険制度となるメディケイドやメディケアに携わっていた人物だ。オバマケアのためのシステム構築に携わり、2年前に退職した。
今回のテーマとなるオバマケアのためのサイト「HealthCare.gov」は大雑把に言うと、民間健康保険のマーケットプレイスとなる。保険製品の比較と加入をするものだが、日本ほど単純ではない。アメリカの場合、医療保険制度は気が遠くなるほど複雑な仕組みになっているためだ。
現状が複雑なので利害関係者も幅広くいた。大きく分けて国、地方自治体、民間がある。国はホワイトハウス、連邦制度、議会などで医療費に関する予算を決める。地方自治体は州政府、州議会、福祉機関、各種組合などがあり、日々の運用に関係する。民間は医療保険を提供するブルークロス&ブルーシールド協会など保険会社、システムを構築するにはこうした関係者間での調整が必要だった。
オバマケア以前でもオンラインで保険に加入することはできた。しかし審査が複雑で、加入申請の結果が返ってくるまで長い時間を要した。そのため、審査待ちを減らすように既存のマーケットプレイスを刷新する必要があった。なお保険加入の審査には、前年の所得や納税額など多くのデータと照合する必要がある。
チャオ氏は「このプロジェクトではほとんど交渉ができませんでした」と話す。国の制度なので政治家が「いついつまでに施行する」と言えば、システム稼働のデットラインが確定する。ただし「一応、どんなリスクがあるかなどの協議はありました」と補足しつつも、日程に関する交渉は不可能だった。どう見ても間に合わないと思えても。