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第8回 ICTで強烈にイノベーションを推進する韓国の病院経営と医療産業の現場

  2011/06/14 07:00

日本の多くの病院が苦しい経営を続けている中、韓国の病院業界では公立、私立と共に次々と新しい病院建設に乗り出し、経営拡大の道をひた走っている。日本と韓国、それぞれ国の事情はあるにしても、なぜここまで状況が違ってくるのだろうか。今回は、韓国における医療事業の多角化やグローバル化、そして医療情報化について、いくつかの事例を挙げて紹介する。

なぜ、いま韓国の病院は建設ラッシュなのか?

 筆者は、5年にわたり日本の大手私立病院のITアドバイザーを経験し、現在は佐賀県の情報企画監、青森市のCIO補佐官として公立病院の状況を行政内部から見ている立場から、公立、私立病院の経営的な側面から日韓の違いなどを整理してみたい。中でも、韓国における医療事業の多角化やグローバル化、そして医療情報化について、いくつかの事例を挙げて紹介したい。

 近年、日本の医療財政は少子高齢化の急激な進展に伴い、医療需要が急増する一方で、巨額の赤字を出し続けている。さらに日本の病院は、医療診療報酬の適正化や病院経営能力向上など内外の様々な要因によって苦しい経営を続けているのも事実であろう。これらの医療財政の危機を脱するために、前の自民党政権は国民的な抵抗を予想しながらも後期高齢者医療制度を作るなど、あらゆる財政健全化の方策を出し続けている努力をしているように見える。

 一方、韓国ではその正反対の状況が起きている。韓国の医療制度も日本からの影響を受けており、様々な制度も日本と類似点が多い。医療保険制度や国民年金、雇用保険、労災保険などの制度は、日本の制度を土台に韓国に合わせて導入されたものである。

 にもかかわらず、韓国の病院業界は公立、私立と共に次々と新しい病院建設に乗り出し、経営拡大の道を走っている。同じような環境の中で、それぞれの国の事情はあるにしても、なぜここまで違ってくるのだろうか。

韓国の医療産業の今―医療ツーリズムと病院の輸出

 先日の韓国保健福祉部(日本の厚生労働省にあたる)の発表資料によると、2010年に韓国を訪れた外国人患者が8万1千780名であり、これらは2009年に比較すると約36%増加したことにある。また、外国人患者の誘致開始以来延べ人数としては22万4千260人に至ることであった(写真1)。

 この外国人患者の中で外来患者は6万4千777人(79.2%)で、また、健康診断目的で訪れた外国人は1万1千653名(14.2%)、さらに入院患者は5千359(6.6%)である。最近では、日本政府もメディカルツーリズムを奨励しており、海外から患者を誘致するため、活発な動きを見せているが、韓国ほど活発に動いている様子は見えていない。

写真1:金浦国際空港の敷地内にあるウリドル病院の全景
(看板には英語、ロシア語、中国語、日本語でも院名が
表記されており、海外からの患者を積極的に誘致している)

 韓国政府は1997年経済危機以来、医療産業の再編が行われた。病院の大型化、民間企業の病院経営参加、中小病院同士の経営への連携、医薬分業、保健医療財政の抜本的な運営改革などなど目まぐるしい改革を進めてきた。

 その結果、多くの病院が活気を取り戻すことになった。近年は韓国政府としてはメディカルツーリズムを国家的な未来産業として取り上げ、意欲的に推進しており、医療関連業界も同じ目線で、官民一体となり意欲的に取り込んでいる。

 先週、取材を兼ねて訪れた仁川国際空港では、税関検査が終わり出口を出たところに、医療観光案内デスクが設置してあった(写真2)。この韓国観光公社の案内デスクには、英語や日本語、中国語などの外国語を自由に喋れる案内係のスタッフが常駐し、健康診断か、美容整形か、その他の治療か、など患者のニーズに合わせて、適切な病院を案内している。

写真2:仁川国際空港の医療観光案内デスクの写真

 さらに、この案内デスクには数々の病院別カタログを用意しており、医療観光客に手渡ししていた。主な内容としては、漢方、整形、眼科、エステ、そして健康診断関連資料、また、各大手病院の紹介資料などだ(写真3)。

写真3:仁川国際空港の医療観光案内デスクで配布している韓国医療観光の案内資料

 このように海外から患者を誘致したい病院は、それらに必要な資料の提供はもちろんのこと、海外から訪れた患者がコミュニケーションで困らないように、それぞれの国の言葉を喋れる通訳までも用意している。さらに、医師や看護師までもがある程度の外国語を使えるような能力も鍛えているという。

 このように医療観光を誘致するということは、単なる「言葉の宣言」でできるものではなく、実際の医療提供側である病院が、営業拡大のために切実な思いをもって、国と一体になって取り込むことで実現可能であるということを改めて感じられる。このように韓国での医療産業は、重要な輸出産業として着実に実績をあげているのである。

 さらに、このような先進的と言われる医療に関する情報システムを作って来た韓国のSI業界や韓国知識経済部(日本の経済産業省)としては、今までの経験を生かして、病院自体と医療機器、病院情報システムを一体化して売り出そうとしている。

 つまり、海外において単なるコンピュータシステムの売り込みだけではなく、病院の建設から病院の運営のためのノウハウ、そして関連する情報システム、すなわち、病院建設のための資金調達から病院建設事業、病院経営のための経営情報システムやオーダリングシステム、電子医務記録管理(EMR)などを含めて、トータルシステムとして輸出しようとしているのだ。

 そのため、今年2月17日に韓国政府の認可を経て、韓国デジタル病院輸出事業協同組合を設立し、本格的な輸出に向けた動きを見せている。この組合の構成員は医療関連企業50社、建設関連企業1社、病院3社を含む63社で、各社の出資で設立されたものである。これらの各企業・組織の連携を見ていると韓国政府や関連事業者の意気込みが感じられる。

 活動主体は韓国デジタル病院輸出事業協同組合であるが、それらを支援しているのは医療関連産業に関わっている病院や病院関連ソリューションを持っている情報システム業界、医療機器生産企業、そして政府機関である。政府機関の中では、医療産業育成の側面での支援を知識経済部(日本の経済産業省)が、海外の国へのODAなどの経済協力を企画財政部(同:財務省)が、情報入手や営業支援を外交通商部(同:外務省)が、病院そのものの輸出を保健福祉部(厚生労働省)が支援しており、国としてのグランドデザインに基づき省庁の枠組みを超えた取り組みを行っている。

 読者の中には、病院の輸出など本当に可能なのかと思われる方がいるかもしれない。しかし韓国では、すでに医療産業の輸出は始まっており、中国には上海ウリドル病院をはじめ6カ所、ベトナムに韓国眼科病院をはじめ2カ所、ロシアにはホホホイル針漢医院、米国にはハリウッド長老病院をはじめ3カ所が、すでに設立され運営中であるという。

 このように韓国の計画は絵に描いた餅だけではない。韓国政府と関連業界は、今まで進めてきた医療関連産業の更なる飛躍を図るため、医療分野での高度情報化を通じた国際競争力を武器に、海外からは医療観光客を誘致し、さらに海外には病院関連トータルプラントを輸出するという、ロードマップに沿って着実に進めているようである。(次ページへ続く

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