「いびつな平成」が終わり、「ポストデジタルの令和」が始まる
「平成が終わろうとしている今、ふり返ると昭和の時代に思い描いたような世界にはならなかった。きらびやかな未来イメージとは異なり、どこかいびつな世界だ。令和はポストデジタルの時代になる。」──アクセンチュアの山根圭輔氏はこう語る。
デジタルフォーメーション(DX)が語られる今、「ポストデジタル」を掲げることは性急な感がある。アクセンチュア自身が、これまでデジタルのトレンドへの適応を説いてきたからだ。アクセンチュアによれば「ポストデジタル」は、デジタル技術の終わりを意味するのではなく、むしろその逆であり、デジタル化が進む中、浮上してきた生活者や社会の新たな課題──個人の信頼、プライバシー、責任や倫理などのテーマに取り組むことだという。
「テクノロジービジョン 2019」は、アクセンチュアが全世界6600名(うち日本人は約300名)へのアンケートによる調査でまとめられた。その結果定義されたのが、1)DARQの力、2)「私」を理解せよ、3)「ヒューマン+」としての労働者、4)自身を守るために全体を守る、5)マイマーケットといった5つのトレンドだ。
「DARQ」の力(DARQ Power)
「DARQ」とは分散型台帳(distributed ledgers)、人工知能(artificial intelligence)、拡張現実(extended reality)、量子コンピューティング(quantum computing)の4つのテクノロジーの総称。
アクセンチュアは以前は「SMAC」(social、mobile、analytics、cloud)という言葉を提唱していた。「SMACの世界が終わったのではなく、むしろそこにDARQが加わった」(山根氏)
DARQの着目すべき事例として、ドイツの開運業務へのブロックチェーンを用いた改革、Adobeの人工知能による新たな画像補正、人気ゲーム「フォートナイト」のDJイベントがVR上で1000万人の参加者を集めたことなどを紹介した。
「私」を理解せよ(Get to Know Me)
今日の消費者は、テクノロジーによって「拡張された私 = テクノロジーアイデンティティ」を持っている。このことを理解した製品・サービスも登場してきている。インドの金融会社の「SlicePay」はSNSでの投稿や利用状況から信用スコアを算出し融資をおこなうとともに、従来のクレジットスコアで判断できなかった銀行口座を開設できなかった人にも低金利で融資を可能にする。一方で、昨年のFacebookのプライバシー情報の不正利用問題、GoogleのGメールの広告表示のためのテキスト分析の中止など、「過剰なパーソナライズへの批判」が高まっている。
この点で、いち早くプライバシー保護に舵を切ったアップルのようにプライバシーに対するユーザーの権利を大切にすることが他社との差別化要因になってくる。
「企業としての哲学を持つことが求められている」という。
「ヒューマン+」としての労働者(Human+ Worker)
労働者は「ヒューマン+(プラス)」(Human+)”という存在へと変わりつつある。企業はこれまで、人とテクノロジーに別々に投資していたが、今後は人とテクノロジーを融合した「ヒューマン+」への投資の視点を持つことが重要になる。
ユニリーバは採用面接でゲームを用い、面談にAIを取り入れ表情、言葉、音声の分析をおこない判断の精度を高めオファー率を向上させた。
また日本航空(ANA)では地上勤務のスタッフの接客に音声認識対応システムを用い、顧客のサポートの満足率を高めている。
アクセンチュア自身も社内で、ロボット型のコミュニケーションシステムPMO(プロジェクトマネジメントオフィサー)を構築し、チームの進捗やスケジュールを管理。ノウハウや知見の共有に役立てている。
自身を守るために全体を守る(Secure Us to Secure Me)
企業のセキュリティリスクは、パートナー企業や関連会社から高まるケースが増えている。
今回の調査では97%の経営者が「セキュリティが自社のエコシステム・パートナーにとって重要」と答えた一方で、パートナー企業のセキュリティレベル維持管理能力を把握していると答えた経営者は14%。企業のセキュリティへの課題意識は高いものの、実態は追いついていない。
「まだ社内ガバナンスが徹底していない企業が多い。社内を整え、認識を改め、社外のエコシステムやガバナンスモデルをつくるべき」(山根氏)
マイマーケット(MyMarkets)
「デジタルツイン」はデジタルな世界に、フィジカルでリアルな世界を再現し「新たな現実」を実現することで、製品や製造工程に活かすソリューション。この「デジタルツイン」の考え方が、企業と消費者の関係で、新たなモデルとして進化している。
これまでのデジタルツインは、リアルな消費者の行動の一部を「写像」としてデジタル世界の中でとらえていた。新たなデジタルツインでは、消費者の一部ではなく、常に移り変わる「瞬間の写像」をとらえ、リアルタイムにマッチングをおこなっていく。
Aさんという全体の一部ではなく、たとえば、朝7時の出勤前の「ダイエットしたい」Aさん、昼間の「電車が遅れて最適ルートを探したいAさん」、顧客訪問時の「プレゼンで緊張するAさん」のように、ニーズを細かいメッシュでとらえて、製品・サービスへのマッチングをおこなう。
インドの食品会社では、ソーシャルメディアでの顧客の声や販売データ、顧客の思考データからデータ分析を従来より細かいメッシュで分析し対応する製品を作っている。レシピから商品を製造する工場ではコンピュータ操作によりモジュラー機構を自動変更し、2〜3分でレシピ変更に対応する。
オランダ、ロッテルダムの港湾システムでは、船舶から入る船をIoTセンサーで動的にとらえ、デジタルツインとしてデータ化し、船舶に合わせた港湾サービスを提供し、待機時間の低減、無人船舶の宿泊場所への自動誘導などをおこなっている。
山根氏は、最後に「こうした5つのテーマを理解し、企業はどうすれば良いのかを絶えず考えていことが重要」と語り、あらためて「企業としての哲学」に必要性を強調した。
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