ソフトウェアのメトリック(課金形態)は今まさに変わろうとしている
ソフトウェアのメトリック(課金形態)はさまざまだが、これまではソフトウェアを利用する「ユーザー」数に基づく課金が最も一般的だった。ただし、この傾向は今まさに変わろうとしている。ガートナーのアナリストでバイス プレジデントの海老名剛氏は次のように述べている。
――近年では、モノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)といったデジタル・テクノロジを経由するなど、ソフトウェアへのアクセス方法が多様化しています。こうした中、何をもって「ユーザー」とするかの定義が曖昧になりつつあり、接続する「デバイス」の数を測定することはより難しくなってきています。
――一方で、多種多様なアクセスや利用が広がる中で、ソフトウェアが処理するトランザクションの量は、これまで以上のペースで増えることが見込まれます。ソフトウェアが扱うデータ・ボリュームをベースに課金することは、ベンダーにとって新たな「商機」になり得ます。実際にこうした提案が徐々に広がりつつあります。
今回の調査結果では、データ・ボリュームをメトリックとしてソフトウェアを契約する回答者の割合は、業務ソフトウェアで11.1%、デスクトップ・ソフトウェアで8.6%と、さほど高くはなかった。
ただし、データ・ボリューム以外のメトリックで業務ソフトウェアを契約する回答者に対し、「データ・ボリュームへのメトリックの変更をベンダーから提案されたことがあるか」と尋ねたところ、「ある」が77.4%と高い割合となった。業務ソフトウェアを中心に、今後、メトリックの変更を迫られるユーザー企業が広がるであろうと、ガートナーはみている。
海老名氏は、次のように述べている。
――データ・ボリュームはデジタル化を背景に、近年、一般化しつつある新たなメトリックといえます。このメトリックはユーザーにとっても、メリットをもたらします。例えば、契約ユーザー数やデバイス数が足りない、といったライセンス監査にありがちな指摘は、このメトリックではあり得ません。
―― 一方で、新たなメトリックであるだけに、依然として不確定かつ未成熟な側面も見られます。ユーザー企業は、このことを念頭に置き、データ・ボリュームの測定方法や従来契約とのコストの違いについて、現在の利用状況を棚卸ししたり、ベンダーと協議したりする時間を確保し、十分に準備することが望まれます。
SAP/Oracleユーザーの過半数が第三者保守サービスの利用/検討経験がある
今回の調査では、SAPおよびOracleのユーザーに対して、第三者保守サービスの利用/検討状況についても尋ねた。その結果、過半数で利用/検討経験があることが明らかになった(図2)。
実際に「利用中」の企業27社に対して、満足度を5段階で評価するよう依頼したところ、最も低い「大変不満」の回答はなく、「大変満足」が3.7%、「満足」が33.3%、「普通(可もなく不可もなく)」が59.3%、「不満」が3.7%だった。
第三者保守サービスの利用は、ある程度の「割り切り」で利用されることが珍しくなく、また分かりやすいコスト削減効果がある点を割り引いて考える必要がある。とはいえ、満足度は総じて良好といえる。
海老名氏は、次のように述べている。
――デジタル・テクノロジとの連携やクラウド化を進めるために製品のメジャー・バージョンアップを行い、旧バージョンのサポートの終了を予定するベンダーがあります。しかしながら、こうした強化を今すぐに必要としないユーザー企業も存在します。自社ソフトウェアを現バージョンのまま延命させることも時として、新たなテクノロジを取り入れるのに最適なタイミングや機会を得るための打ち手になり得ます。
――第三者保守への高い関心が示された今回の調査結果は、こうしたユーザー企業の意識の表れであると推察します。ただし、この「打ち手」を有効に活用するには、実際の効果を得るまでの「シナリオ」を社内の関係者と慎重に協議し、共有しなければなりません。
なお、ガートナーは8月30日、東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)において「ガートナー ITソーシング、プロキュアメント、ベンダー&アセット・マネジメント サミット 2019」を開催する。
サミットでは、「デジタル時代のパートナー戦略を構築せよ」をテーマに、これまでのアウトソーシングの成果と教訓を統括しつつ、デジタル時代の新たなパートナー戦略の構築に向けて、ITリーダーが押さえるべき施策をはじめとした実践的な提言が行われる。
■調査概要
Web調査は、国内のソフトウェア・ユーザー企業で、かつ、ソフトウェアの選定や導入に関与している担当者のみを対象に、2019年5月に実施した。有効回答数:207人。
国内企業におけるソフトウェア契約の状況を明らかにするとともに、ソフトウェアのコストを適切に管理し、デジタル・トランスフォーメーションを含むビジネスへの貢献度の最大化に向けた課題と施策について考察することを目的に実施した。