5年間の年間平均成長率は60.2%になると予測
2018年から2023年までの予測期間を通じて、ブロックチェーンへの支出額は安定して増加し、5年間の年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は60.2%になるとIDCでは予測している。2019年のブロックチェーン支出額は、前年比80%増の27億ドルと予測されている。
米国IDC Worldwide Blockchain Strategies リサーチディレクターであるジェームス・ウェスター氏は、「一般社会ではブロックチェーンをめぐって時として白熱した議論が交わされていますが、そのような中で、企業によるこのテクノロジーの採用は静かに進行し、複数のユースケースでティッピングポイントに達しています。初期の試験運用プログラムでブロックチェーンの価値を認めた企業が、そうしたプロジェクトを本番環境に移しつつあります」と述べている。
また、「このSpending Guideに掲載されているデータから読み取れるように、ブロックチェーンによる効率向上、プロセスの改善といったメリットが理解されるにつれ、ブロックチェーンは急成長し、企業による採用が加速しています。ブロックチェーンというテクノロジーに関しては、具体的に言うと、規制とガバナンスの部分にまだ不確実性が残っています。しかし、金融サービス、アイデンティティ、貿易などの市場におけるブロックチェーンの普及には勇気づけられるものがあります」と述べている。
銀行業界は「国際決済」と「貿易金融/取引後決済」という2つのユースケースが牽引役に
世界的にブロックチェーン支出額が最大の業種は、銀行業だ。予測期間全体を通じて、銀行は全世界の支出総額の約30%を占める見通しだという。その次に大きい支出が見込まれる業種は、組立製造業とプロセス製造業になる。両者を合わせると支出額全体の20%以上になる見通しだ。
プロセス製造業は、最も高い支出成長率が見込まれる業種でもあり(CAGR68.8%)、予測期間の終わり頃には、ブロックチェーン支出額が第2位の業種になると予測されている。その他の業種(組立製造業、プロフェッショナルサービス、小売業、公益事業)も、市場全体の成長率より高い成長率が見込まれている。
銀行業界は、ブロックチェーンの上位2つのユースケース(「国際決済」および「貿易金融/取引後決済」)における支出の牽引役になる見通しだ。「来歴管理」および「資産/商品管理」のユースケースは、組立製造業、プロセス製造業、小売業による着実な投資が牽引するものと予測される。IDCが特定したユースケースは、いずれも予測期間を通じて強力な支出成長率を示し、両者のCAGR差が数パーセント以内に収まると予測される。
テクノロジーの観点から見ると、ITサービスおよびビジネスサービスの合計は、2019年のブロックチェーン支出額全体のほぼ70%を占める見通しだ。予測期間中における投資額としては、ITサービスの方がやや多いと予測される。
ブロックチェーンプラットフォームソフトウェアは、サービスセグメント以外では最大の支出カテゴリーになる見通しであり、5年間のCAGRは65.2%と予測されている。ITサービスの66.0%に次いで、全体で2番目に成長率の高いテクノロジーカテゴリーになる見通しだ。
2019年、米国のブロックチェーンソリューション支出額は約11億ドルで最大の地域市場に
2019年、米国におけるブロックチェーンソリューションの支出額は約11億ドルと予測され、米国が最大の地域市場となる見通しだ。西ヨーロッパ(6億6,100万ドル)、中国(3億400万ドル)がこれに続く。このSpending Guideで採り上げられている9つの全地域で、2018年から2023年までの予測期間中、大幅な支出額の増加が見込まれる。5年間のCAGRは、カナダが73.3%で突出している。
米国IDC Customer Insights & Analysis リサーチマネージャーのステイシー・スーフー氏は、「暗号通貨とは、解決すべき問題をこれから探さなければならない解決策ではないだろうか、という議論が続いていますが、多くの組織や企業がすでに実感しているように、ビジネス上のさまざまな差し迫った問題が、ブロックチェーンで解決されます。ブロックチェーンによってもたらされる著しい進歩を、バリューチェーンに連なる各プレイヤーが実感するにつれ、多数のブロックチェーンプロジェクトが勢いを増しており、業界内および業界間のさまざまなユースケースを対象に、切望されていた変革が始まりつつあります」と述べている。
また、「企業における概念実証のフェーズが終わりつつある今、問題はブロックチェーンが普及するかどうかではなく、どこまで普及するかです。コラボレーションやパートナーシップの促進と同時に、組織間におけるデータの共有、旧態依然のプロセスの簡素化、ビジネスプロセスにおける透明性の向上といった確かなメリットが、ブロックチェーンによって実現されつつあります」と述べている。
「Worldwide Semiannual Blockchain Spending Guide」では、9つの地域における19の業種と17のユースケースにわたり、10種類のテクノロジーの支出データを示すことにより、新興のブロックチェーン市場を数値化している。
IDCでは、ブロックチェーンを取引または記録のデジタル分散台帳と定義している。情報すなわちデータを保管する台帳は、P2Pネットワークの複数の参加者にまたがって存在する。台帳を保管する単一の中央リポジトリーはない。
分散台帳技術(DLT)を利用すると、安全な電子署名または暗号署名を使用し、既存のトランザクションチェーンに新しいトランザクションを追加できる。ビットコインなど、ブロックチェーンと分散台帳技術を用いる、各種の暗号通貨に関連する支出は、Spending Guideには含まれていない。
業界で行われている他の調査とは異なり、このSpending Guideは、IT意思決定者がブロックチェーン関連の支出について、現在および今後5年間にわたる、業界固有の分野や方向性を明確に把握できるように編集されている。