ガートナー ジャパン(以下、ガートナー)は、日本企業におけるクラウド・コンピューティングに関する2021年の調査結果を発表した。本調査は、日本の企業や組織がITに関して抱える様々なニーズや課題を分析するために毎年行われているものだという。
本調査の結果、日本におけるクラウド・コンピューティングの利用率の平均*は、2020年調査から4ポイント増の22%となった(図1参照)。なお、平均値については、単純にSaaS、PaaS、IaaSといった各クラウドの項目の利用率の合計を項目数で割ったものであり、実際の利用率ではないため、あくまでもトレンドを見る際の参考値として捉える必要があるとしている。
また、クラウド・サービス別に見ると、2021年調査ではSaaSが2020年調査から8ポイント増の39%となった。この背景には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によるWeb会議ソリューションの利用拡大などがあるとしている。
アナリストでディスティングイッシュト バイス プレジデントの亦賀忠明氏は、「今回の結果には、この1年で生じた様々な要因が影響していると考えられます。Amazon Web Services、Microsoft Azure、Google Cloudといったハイパースケーラーからは、マイグレーションやクラウド・ネイティブの活用など、クラウドに関する様々なアピールがなされました。日本政府は、政府共通プラットフォームへのAmazon Web Services(AWS)の採用を発表し、ユーザー企業がクラウドを『自分で運転』する機運も、『内製化』というキーワードの露出が増えるに従って高まりました。それを受けて、国内の大手ベンダーや多くのシステム・インテグレーターもこれまで以上にクラウドに積極的になっていることが、先行ユーザーだけでなく、広く日本全体のクラウドの推進を後押ししている大きな要因になっているとみられます」と述べている。
外部クラウドとオンプレミスへの投資意欲はともに拡大
本調査では、外部クラウドとオンプレミスのどちらにより多く投資すると考えているかを尋ねている。外部クラウドへの投資意向については、これから1~2年かけて外部クラウドの利用を増やすとの回答が2021年調査では、過去最高の55%だったという。さらに、オンプレミスへの投資意欲も拡大したとしている。
亦賀氏は、「過去の調査では、外部クラウドへの投資意向と実際のクラウドの利用状況が相関しているとはいえない結果でした。しかし今回、ようやく投資意向と実際の利用状況が同じ傾向を示しました。これは、日本企業が『頭でわかっても体が動かない』状態から、『頭でわかって体も動く』状態へと変化したことの表れと言えます。こうした変化はこの10年で見ても大きなものであり、クラウドが次のステージへと進んだ、すなわち、様子見・試行導入フェーズから普及・拡大フェーズに入ったと捉えるべきです。インフラストラクチャ/オペレーション(I&O)のリーダーは、クラウド戦略の策定と推進を加速させる必要があります」とコメントしている。
本調査では、企業や組織がクラウドのスキルを身に付けるためにどの程度投資しているかについても尋ねているという。現場でクラウドのスキルを高めようとする動きは年々強まっており、2021年調査において、「クラウドのスキルを重要と認識しており、積極投資している」という回答は、2020年調査から9ポイント増の34%に達している。
また、クラウドに対する上司の理解度については、「理解しておらず困っている」という回答が4割近くに上り、「理解しているとは言えない」という回答と合わせると、7割の企業では、マネジメント層の理解度の問題が生じている実態が浮き彫りになったという(図2参照)。
亦賀氏は、「時代が変わったと認識し、すべての管理職がクラウドのスキルを身に付けるための時間と機会をつくることがI&Oリーダーには求められます。これは、社長やCIOなどの役員クラスの管理職についても当てはまります。クラウドが当たり前になる時代においては、『クラウドは自分にはわからない』という状態ではその役割が務まりません。I&Oリーダーは、クラウドを時代が要請する新たなリテラシーと捉え、『本物のクラウド』のスキルを獲得し、クラウドを自分で運転し、さらには駆使できるようにすべく、行動を加速させる必要があります」と述べている。
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