
米DevRevは2025年10月23日、東京・港区で記者説明会を開催し、9月18日付で日本法人DevRev Japan合同会社を設立したことを発表した。日本事業責任者には河南敏氏が就任し、会長には町田栄作氏が就任する。同社CEOで共同創業者のディラージ・パンディ氏が来日し、AIエージェントと人間が協働する「Computer」プラットフォームの構想を説明した。
DevRevは、AIとデータプラットフォームを提供する企業で、CRMプラットフォームを中心に米国、欧州、アジア市場で評価を獲得してきた。日本市場について同社は、高品質なサポートサービスや高機能な製品開発力の高さから需要拡大が見込まれると判断し、法人設立に至った。コクヨ、北銀ソフトウェア、マクニカを国内初の顧客として迎えるとともに、クラスメソッドとSynthesyとの販売パートナー契約を締結した。
AIプロジェクトの95%は失敗、OSの発想で解決へ
CEOのディラージ・パンディ氏は、HCI(ハイパーコンバージド・インフラストラクチャ)のNutanixの創業者で2020年まで同社のCEOでもあった人物だ。同氏は冒頭、企業におけるAI導入の現状について言及した。「AIプロジェクトの95%は成功しない。自社で開発した場合、パイロットや試作品止まりになっている」と述べ、MITの調査結果を引用しながら、多くの企業がAI導入で期待した成果を得られていない実態を指摘した。上場企業が数十億ドルから数百億ドルという資金を投じてAI開発を進めているにもかかわらず、投資効果が出ないという状況が続いているという。
同氏はこの課題の背景として、企業が20年から30年にわたって蓄積してきたレガシーデータとアプリケーションのサイロ化を挙げた。「CRM、ERPといった様々なアプリが過去25年間開発されてきたが、これらのアプリはお互いに会話をしない、連携できないという状況が生まれている」と説明した。クラウド化が進んでもアプリケーションの乱立は続いており、企業内のデータとシステムが分断されたままになっている現状を指摘した。
「AIにもOS的な考え方が必要だ」とパンディ氏は主張した。AIは単にエージェントを提供するだけでなく、セキュリティ、説明可能性、精度といった要素を包括的にカバーする必要がある。人間とエージェントが一緒に仕事をするチームという概念が重要になり、「AIはチームメイトになるべきだ」と強調した。
3つの技術基盤で企業データを統合
DevRevが提供する「Computer」プラットフォームは、検索、SQL、MCP(Model Context Protocol)という3つの技術基盤で構成されている。これらの技術により、企業内に散在する構造化・非構造化データを統合し、AIが活用できる形式に変換する。パンディ氏は、レガシーデータを「メモリー」と呼ばれるナレッジグラフとして体系立てることで、AIネイティブな組織への転換が可能になると説明した。
検索機能については、マルチテナンシー、リアルタイムでの更新、文脈理解といった要素を重視している。パンディ氏は「検索というのはコンテクストが必要になる。タイムゾーン、チーム、メール、カレンダー、優先順位といった各プロンプトを検討しなければいけない」と述べ、個人やチームの状況に応じた検索の重要性を強調した。20年から25年前には20のサーチエンジンが存在したが、Googleに集約された歴史を振り返り、DevRevの検索もGPUを活用した高速処理とコンテクスト理解を実現していると説明した。
また、1970年代から存在する技術をSQLを再評価する。ナレッジグラフをSQLスキーマとして扱うことで、AIモデルがより効果的にデータを活用できるようにしている。パンディ氏は「検索だけでは不十分な場合、SQLが有効。AIモデルは数式を扱うのにSQLやコードを使っており、データモデリングを活用することでAIモデルがよりよく稼働する」と述べた。自然言語のクエリをSQLクエリに変換するText2SQL技術により、エージェントに対してダイナミックに生成されたSQLが回答を返す仕組みだ。
MCPは自然言語からAPIやワークフローを自動的に発見する仕組みで、レガシーシステムとAIの橋渡しを行う。パンディ氏はMCPを1990年代のDNS(ドメインネームサービス)に例え、「英語を使って新しいAPIを見つけていく。日本であれば自然言語は日本語になる。日本語からAPIにどうやって繋げていくのか。新しい言葉、プロトコルが、古いコードの言葉を変えていく」と説明した。
これら3つのエンジンを統合することで、AIエージェントは適切な手段でデータにアクセスし、ユーザーの質問に回答できる。パンディ氏は「何を、どこで、いつ使うのか。その質問に対して、検索、SQL、MCPのそれぞれが回答していく。2つのエンジン、あるいは3つすべてを使うこともある」と説明した。複数のエンジンが回答を正していくルーティングの仕組みこそが、DevRevの「Computerメモリー」と呼ばれるナレッジグラフの強みになっているという。
日本企業3社が採用、業務効率化と顧客体験向上を実現
日本事業責任者の河南敏氏は、国内での導入事例を紹介した。河南氏は昨年12月にDevRevに入社し、約1年をかけてアプリケーションのローカライゼーションやウェブサイトのローカライゼーションを進めてきた。「日本に参入する上で言語が非常に大きな壁になる」として、日本の顧客が安心して使える土台を築き上げたという。その結果、日本市場で新しい製品を積極的に採用する3社の顧客を獲得した。
コクヨはレンタルスペースやシェアオフィス事業において、顧客からの問い合わせ対応にDevRevのエージェントを活用している。河南氏は「クライアント数が増える一方で、問い合わせ対応に人的リソースをかけることができないというトレードオフがあった」と説明した。
北銀ソフトウェアは、銀行や自治体を顧客に持つ同社の業務効率化基盤としてDevRevを採用した。同社では、メールや会議、電話といった様々な形で顧客からの問い合わせがあり、会議の議事録をマネジメントしなければいけないという課題を抱えていた。その結果、企業内に構造化データと非構造化データが混在し、顧客とのコミュニケーションに難しさを感じていたという。DevRevのComputerを使って、企業内に散在した顧客の情報やファイルデータを管理し、製品開発を行う上での仕様書の管理も一つのプラットフォームで実現している。河南氏は「Computerに問い合わせるだけで、お客様からの過去の課題や現状のビジネス状況を把握でき、新しい製品開発に繋げることができる」と効果を語った。
マクニカは自社開発のAIソリューション「おまとめ忍者」のバックエンドとしてDevRevを利用している。「おまとめ忍者」は、顧客とのミーティング内容を議事録にAIが起こすAIプラットフォームだ。顧客がマクニカに問い合わせをしたり、製品の使い方がわからないので助けてほしいという要望を受け取る中で、顧客の声をどうやって次の製品開発に繋げるかという課題を持っていた。DevRevのエージェントが顧客の声を吸い上げ、その内容を製品開発に直結させる仕組みを構築した。河南氏は「お客様がこのボタンが使いにくい、こういうメニューが欲しいという声が直接開発部門に伝わり、非常に迅速に製品の改修ができるようになった」と述べた。
パートナー連携で日本市場へ本格展開
DevRevはクラスメソッドとSynthesyとの販売パートナー契約を通じて、日本市場での展開を加速させる。河南氏は「顧客、DevRev、パートナー様という協奏の体制をしっかり築くことで、日本の顧客が抱える課題解決に繋がる」と述べ、パートナー戦略の重要性を強調した。
クラスメソッド 産業支援グループ 業務効率化ソリューション部の武田信夫氏は、業務効率化の観点からDevRevの価値を評価した。「DevRevによる業務を効率化は、探索と深化と言われる両利きの経営に繋がる」と述べ、深化の部分を効率化することで探索活動のための時間を生み出せると指摘した。
武田氏は企業内のサイロ化問題にも言及した。「エンドユーザーのデータのサイロ化はモダンデータスタックやデータ分析で解けるが、会社の業務の部分でもサイロ化が起こっている。顧客サービス、販売、開発がそれぞれサイロ化している」と説明し、「DevRevのサービスによって使っているツール群を一つにまとめることで、部分最適から全体最適に変わっていく」と同氏は指摘した。開発は現場の意見や販売の意見、顧客サービスのデータも使いながら開発する時代になっており、生成AIを活用する中でサービス群が繋がっていく必要があるという。
Synthesy 代表取締役CEOの松崎真樹氏は、日本企業がAI時代を生き抜くための支援を表明した。松崎氏は「日本企業の業務の分担が変化して分化になり、分断を生み、サイロを産んでいる」と指摘し、その解消に「DevRevのソリューションは革命的だ」と評価した。同社はDevRev事業を立ち上げ、来年末までに2桁の企業への導入を目標に掲げている。
河南氏は「日本市場での需要拡大を背景に日本法人を設立し、お客様へのサポート体制を強化する」と述べ、パートナーとの協業を通じて日本企業の課題解決に取り組む方針を示した。DevRevは昨年12月から約1年をかけてアプリケーションとウェブサイトのローカライゼーションを進めており、日本市場への本格参入の準備を整えてきた。マーケティング活動やその他の活動をこれから加速させることで、DevRevの認知度を高め、顧客の課題解決をパートナーと一緒に取り組んでいくという。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
