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SAP on Azureでマルチクラウド体制に移行―ゴルフダイジェスト・オンラインCTOの決断

段階移行か全面移行か、AWSかAzureか、マルチクラウドか

 GDOが最初にクラウドを検討したのは2014年。既存のオンプレミス環境に新規システムを入れる余裕はあまりなかったため、新規はクラウドサービスで稼働させることにした。主に既存サービスの付加機能などフロント側の処理が多い。

 2014年というと、Azureは日本データセンターを2月に稼働開始したばかりだ。当時GDOはAzureもテストしたものの、コネクションエラーが多発するなど評価は芳しくなかった。結果的にAWSを採用した。2017年2月のマルチクラウドへの移行の前に、先行していくつかシステムはAWSで稼働していた。

 サポート期限切れをきっかけに、GDOでは2016年から本格的にクラウドへの全面移行を検討開始した。現場からはオンプレからクラウドへの段階的移行が発案されたが、渡邉氏は「やるなら、どかんとやれ」と一蹴した。現場の意向としては「何かの原因で総崩れになり、全サービス停止」という惨状を回避したかったようだ。

 しかし渡邉氏の考えは違っていた。段階的に移行すると、段階ごとにテストが必要になり接続のパターンが複雑化する。そうすると作業が長引くと渡邉氏は予想した。「見えたんですよね。段階ごとに細かな調整を続け、だらだらと時間がかかる姿が…」。

 GDOは過去にシステム刷新でトラブルを経験しており、現場が慎重になるのも無理はない。しかし移行トラブルを経験した教訓から、今ではIT基盤は環境移行しやすいようなアーキテクチャにしている。システム間連携はかならずEAI(Enterprise Application Integration)を通すように社内システム標準を定めていたのだ。

 渡邉氏の命により、オンプレからクラウドへは一気に移行することが決まった。そこで移行先である。すでにAWSを使用していたため、AWSが順当だった。

 ところがSAP ERPだけは別枠となった。検討していた2016年夏当時、マイクロソフトからAzureに移行することでコスト的に有利になる提案があった。GDOはそれに乗ることにした。

 コストメリットがあるとはいえ、AWSに加えてAzureも利用するとなるとマルチクラウド体制になる。シンプルさを維持するという前提が崩れてしまう。その点については、経営企画本部 インフラマネジメント室 室長 白尾良氏は「SAPのシステムは外部との接続がありません。クローズドなものだけAzureにまとめるので、これはこれでシンプルです」と説明する。これには渡邉氏はうなったが「許容範囲」として認められた。

経営企画本部 インフラマネジメント室 室長 白尾良氏
GDO 経営企画本部 インフラマネジメント室 室長 白尾 良氏

 渡邉氏は許可したものの、内心では反対だった。何か問題や制限が見つかり、結局はAWSに一本化するのではないかという予想が「95%」だったという。Azureは2014年の評価時よりレイテンシーは改善されたものの、Azureの仮想マシンでシステム再起動が起こるなど気がかりな問題がしばらく残り、不安もあった。しかし結果的にはAzureに致命的な問題はなく、2017年2月の移行本番では晴れてAWSとAzureのマルチクラウド体制へと移行できた。

適材適所でクラウドベンダーを選べる体制を構築できた

 Azure採用の大きな理由はコストメリット。シンプルさを維持する点では許容範囲内とみなされた。加えて渡邉氏はこう補足する。「今回の決断は特定のクラウドベンダーにロックインされるのを防ぐことができたと考えることもできます。Azureは近年急速に性能や機能強化が進んでいますし、今ではGoogle Cloud Platformも有力です。適材適所で柔軟にクラウドベンダーを採用していきたいです」

 IT基盤をオンプレからクラウドへ移行したことは大きな変化ではあるものの、使用するアプリケーションは同じなのでエンドユーザーには違いはないはずだ。しかし経理など現場からは「早くなった」と絶賛する声が届いているという。システム運用チームからは「Azureポータルのデザインが洗練していて、使い勝手がいい」と好評だ。

 移行で問題が生じなかったのは、過去の経験から「移行しやすいIT基盤」を固めてきたことが大きい。教訓の積み重ねが実を結び、マルチクラウド体制への移行という難関を成功裏に終わらせることができた。

 渡邉氏は今後の展望についてこう話す。「これからのIT投資はマーケティングです。顧客接点を考えて最適な技術やサービスを活用していく必要があります。クラウドベンダーの競争が激化しているため、複数のクラウドサービスを使い分ける、つまりマルチクラウド化は必至と考えています。今回の移行ではクラウドベンダーやプラットフォームに依存しない体制(アーキテクチャ)を構築できたと自負しています。これからも技術の最新動向にアンテナを張り、最適なサービスを選択していこうと思います」

 渡邉氏の言葉からは「いい条件があればいつでも乗り換える」という意欲がうかがえる。渡邉氏はこうも言う。「今はマルチクラウドは複雑で煩雑と思われていますが、将来はどのクラウドでどのサービスを利用していようが意識することなく、透過的に使える日が来るような気がするんですよね」。

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この記事の著者

加山 恵美(カヤマ エミ)

EnterpriseZine/Security Online キュレーターフリーランスライター。茨城大学理学部卒。金融機関のシステム子会社でシステムエンジニアを経験した後にIT系のライターとして独立。エンジニア視点で記事を提供していきたい。EnterpriseZine/DB Online の取材・記事も担当しています。Webサイト:https://emiekayama.net

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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