時代の流れに取り残される日本の情報システム
一つ目のテーマは、日本企業における情報システムの課題だ。ジャパンSAPユーザーグループ会長で日本航空株式会社 常勤監査役の鈴鹿靖史氏は、日本企業の縦割り型の組織や個別最適の弊害について次のように指摘する。
「それぞれの組織が、こんなシステムを作ってほしい、こんなシステムがあるといいということを情報システム部門に言って、情報システム部門はそれに応じたシステムを作ってきたという歴史があります。個別最適のシステムが乱立しているという状況です。そのため、デジタル化、デジタル変革というのが非常に難しい状況にあるといえます。SAPに代表されるERPが世の中に出てきて20年ぐらいになりますが、このような延長線上でERPを導入した結果、十分にその強みを生かしきれていません。例えばデータを十分に活用できていないという状況にあるユーザー企業が多いというのが実感です」(鈴鹿氏)
これは、情報システム部門がこれまでエンドユーザーが望むものを作るということに拘泥し続けてきた結果であるという。また、鈴鹿氏はここでの大きな問題として「カスタマイズの問題」を挙げる。
「エンドユーザーからすれば、こんな機能があればいい、こういう使い勝手がいいということを言いますが、それを許容してきた情報システム部門にも責任があると思います。今はそういうカスタマイズの山の中にあります」(鈴鹿氏)
カスタマイズは今やビジネス上の競争力にはなりえないものであり、データをいかにつないで、IoTや機械学習などのテクノロジーをいかに組み合わせるか、このような観点から独自性を打ち出して、ビジネスを勝ち抜いていく時代になっていると鈴鹿氏は指摘する。
NTTデータグループのビジネスコンサルティングユニットであるクニエ Sr. Managing Directorの蘇航氏も、これまでの日本の情報システムは、現状業務の再現・システム化、システム屋としてのプロフェッショナル性、安定運用に対して存在価値があり、こういう面を会社の中でも評価されてきたという。しかし、時代の流れは変わったと蘇氏は強調する。
「例えば、ERPの議論はもう20年前からあって、今ではクラウドで様々な標準化の仕組みが数多く提供されています。こういう時代において、標準化や横断的な動きを推進していくということに対して、情報システムは遅れていると痛感しています」(蘇氏)