IoTを活用し、390倍の生産性を実現したAeroFarms
基調講演で発表されたキーメッセージを解説したのは最高技術責任者 黒田晴彦氏。DellとEMCの統合以降、イベントは年々発展している。2016年のDell EMC Worldでは「Let the transformation begin」として「4つのトランスフォーメーション(デジタル、IT、ワークフォース、セキュリティ)」を始めるようにと提言した。続く2017年では「Realize」として変化が実感できる段階にあると示し、今年の2018年では「Make It Real」として具体的な現実化を促した。
今年はイベント名を「Dell Technologies World」と変え、VMware幹部も基調講演に登壇するなど、グループ全体の結束力も目立った。参加者は年々増え、2018年は過去最高となる129ヶ国、1万4000人を超えた。Dell Technologies CEOのマイケル・デル氏はイベントを「世界中で人類の進化を牽引する技術のビジョンを共有する機会」だと位置づけた。
初日の基調講演で真っ先に紹介されたのが倉庫内で野菜を栽培する「AeroFarms」。IoTを活用し、13万ものセンサーを設置し気温や湿度などのデータを収集、分析し、常に適切な光量や水分を調整している。土は使わず、布を張り、根に霧を吹きかけて水分を与える。結果的に水は畑より95%も少なくてすみ、それでいて、収穫量は畑に比べて390倍もの驚異的な生産性を実現した。
世界の水の7割は農業に使われているという統計もある。また水が汚染する大きな原因は畑で使われる農薬だ。AeroFarmsは水を極力使わず、農薬を不要とし、また再生プラスチックから作られた布を土代わりにしているため、何重にも環境保護が実現できている。なお遺伝子検査で安全性も確認している。
これだけの設備投資をしていながらも、野菜の価格は通常のスーパーで販売されているものとさほど変わらない。ニューヨークの隣にあるニュージャージーの倉庫内で栽培しているため、新鮮な野菜を都会に届けることができる。今では海外展開も進んでいる。この事例はIoT活用だけではなく、技術が第一次産業の仕組みを大きく変える可能性を含んでおり、社会に与える変化としても最新で象徴的な事例だ。
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世界は第四次産業革命に突入。IoTとAIが急速に進む。
VMware CTOであり、Dell TechnologiesのIoT部門GMも兼任しているレイ・オファエル氏は近年進みつつある第四次産業革命について解説した。第一次では蒸気機関で機械化がはじまり、第二次では電気で大量生産化が進み、第三次ではコンピュータで自動化を実現した。第四次では諸説あるもののIoTにより物理とデジタルの融合が進むと言われている。実際、先述したAeroFarmsだけではなく、医療や電力など幅広くIoT活用は広がっている。
開発手法も変わりつつある。いわゆるウォータフォール型のように、経営部門から解決すべき課題が設定され、そこからアプリケーションを開発し、インフラを用意するというような段階的な流れではなくなっている。今ではアジャイルにビジネス戦略と技術戦略が密接に調整し合い改良と発展を繰り返していくスタイルに変わりつつある。デル氏は「技術戦略こそビジネス戦略」だと断言した。言い換えれば、技術戦略を積極的に推進することがビジネス戦略であり、ビジネスの成功に欠かせないということだ。
Dell Technologies Vice Chairmanのジェフ・クラークは最近の技術における5つのトレンドを紹介した。順に挙げると、VR/AR、IoT、マルチクラウド、ソフトウェア定義、AI(人工知能)とML(機械学習)だ。
中でも、急速に発展し、浸透しつつあるのがAI(ML含む)だ。このAIには、ユーザー体験を変えていくAI、ビジネスプロセスを変えていくAI、インフラを最適化するAIの3つに分類できる。
ユーザー体験を変えていくAIはチャットボットやスマートスピーカーなど、人間の日常に最も近いところにある。技術的には自然言語の解析や画像認識などが使われる。ビジネスプロセスを変えていくAIは次世代のカスタマーケア、ビジネスプロセス、工場自動化など、人間があまり意識することないところにある。技術的にはデータ分析、機械学習のフレームワークなどを用いてプロセスの自動化や最適化が行われる。そしてインフラを最適化するAIはクルマの自動運転やデータセンターの空調最適化など、人間は全く意識することがないところにある。
Dell Technologiesが新たに発表したストレージ製品PowerMaxでもAIが搭載され、見えないところで最適化され、性能向上に寄与している。
マルチクラウドの市場トレンドから実現のための具体的な選択肢まで解説
5つの技術トレンドの一つ、マルチクラウドについてはモダンデータセンター事業本部クラウドプラットフォームスペシャリスト 吉田尚壮氏が説明した。
IDC Japan調査によると、国内プライベートクラウド市場は年間成長率39%の勢いで伸び、2016年からの5年間で5.2倍となり、パブリッククラウドの1.5倍に成長すると予測されている。RightScaleの調査によると、現在パブリッククラウドのみやプライベートクラウドのみで使っているのは少なく、何らかのクラウドを組み合わせたマルチクラウドが全体の8割を占めている。吉田氏は「クラウドの特徴を見極めて『使い分ける』時代へ進みつつあります」と話す。
クラウドを使い分ける基準は主にワークロードとなる。超高性能が求められる業務アプリや汎用アプリにはプライベートクラウド、ミッションクリティカルにはエンタープライズクラウド、拡張性が求められるWebやマイクロサービスにはハイパースケールクラウドといった具合だ。
プライベートクラウドと言っても様々だ。サーバーやストレージを個別に組み上げてインフラを構築するタイプと、CIやHCIなどあらかじめ組み上がったインフラを調達するタイプと(詳しくは後述)、Azure StackやPivotal Ready Systemなどクラウドごと調達するタイプまである。自力で構築する部分が多いほど独自要件に対応でき、逆に調達する部分が多いほどいち早く着手できるというメリットがある。
エンタープライズクラウドという選択肢もある。エンタープライズ級のサービスやサポートを提供するプライベートクラウドだ。SAPの基盤として使うのであれば、Virtustreamがある。エンタープライズ級のサービスレベルが提供できて、主要なコンプライアンス認定も取得している。従量課金制であるのも特徴だ。大手企業で導入が広がっている。個別要件や汎用システムで使うのであれば、Dell EMCのパートナーとなるクラウドサービスプロバイダーのクラウドを用いてサービスを構築することもできる。
マルチクラウドの実現で現実的なソリューションとなるのが、HCIである程度インフラを調達するケースだ。例えばVxRack SDDCはVMware Cloud Foundation(VCF)を搭載したHCIだ。HCIなので導入時間や工数を削減できるだけではなく、マルチクラウド環境を一元化できるのもメリットだ。
Microsoft Azureを用いたハイブリッドクラウドという選択肢もある。「Dell EMC Cloud for Microsoft Azure Stack」はAzureを搭載したHCI(VxRack AS)だ。Microsoft Azureを企業データセンターに導入できる。当然管理ツールや運用手法はパブリッククラウドのMicrosoft Azureと同じだ。
Pivotal Cloud Foundryのクラウドを使いたいなら「Pivotal Ready Architecture(PRA)」がある。これはPivotal Cloud Foundryを搭載したHCI(VxRail)だ。この場合なら、コンテナ(CaaS)やプラットフォーム(PaaS)をサービス化し、マルチクラウドを実現する。アプリ開発と展開の操作を共通化し、開発効率と柔軟性を最大化できる。
吉田氏は「クラウド活用では『アプリケーション』、『マルチクラウド』、『運用モデル』の3つの視点で変革を推進することが成功の秘訣です。またリスクを低減しつつ実益に結びつける対策が必要です。Dell EMCでは幅広いコンサルティングサービスのポートフォリオがあり、お客様のビジネスを全面的に支援します」と締めくくった。
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