ビジネスケースで経営層から「いいね!」をもらおう!
ディスカバリ&戦略ステージは、経営層にSIAM移行プロジェクトを実施する価値を認めてもらうために、ビジネスケースを作成することが大きな目的となります。ビジネスケースとは、投資やプロジェクトを実施するか否かの判断するための情報です。では、実際にどのような情報が必要となるのかビジネスケースのアウトラインを見ていきましょう。
SIAMのための戦略
SIAMのための戦略とは、SIAMモデルへ移行することで達成したい組織としての目標です。これは組織によってさまざまですが、経営戦略および部門戦略と整合性が取れている必要があります。一般的な期待効果としては、「サービス品質の改善」、「コスト最適化と価値の増大」、「ガバナンスとコントロールの改善」、「柔軟性とスピードの改善」の4グループに分類することができます。なお、第1回の中でもSIAMの期待効果を一部ご紹介しておりますので参考にしていただければと思います。
サービススコープ
サービススコープとは、今回のSIAMモデルの中で管理する対象です。重要なのはSIAM戦略目標が達成できるかどうかであって、すべてのサービスを管理することが目的ではありません。
例えば、コスト最適化を目的とするのであればサービスの金額規模に応じて範囲を限定すればよいですし、エンドツーエンドのサービス品質保証が目的であれば業務継続上重要なシステムのみを対象とすれば十分です。一度にすべてを移行することが難しい場合は、フェーズを区切って移行する場合もあります。その場合は、すべての移行をビジネスケースに含めるのか、最初のフェーズのみとするかによってスコープが変わってきます。
繰り返しになりますが、重要なのはSIAM戦略目標が達成できることです。そのために最適なスコープ定義を実施していただければと思います。
SIAMモデルのアウトライン
SIAMモデルのアウトラインで検討すべき要素は以下の5つです。概ね第2回、第3回で説明済みのため詳細は割愛いたしますが、これまでに説明していないガバナンスフレームワークについては後段で補足説明いたします。
現状の状態
SIAM移行のビジネスケースを作成するための基礎情報が現状の状態になります。まずは現状をしっかりと調査・整理し、結果サマリーをビジネスケースに記載します。成熟した組織であればすでに情報が文書化されているため、文書の収集と関係者へのヒアリングをクイックに実施可能ですが、実際には情報が整理・可視化されておらず、収集に時間を要する場合があります。また、そもそもどんな情報を収集すればビジネスケースが作成できるのか悩むこともあると思いますので、後段で調査すべき情報について補足説明します。
期待効果(目標KPI)
KPIについては、第3回で説明済みのため割愛いたしますが、SIが管理するKPIを示すだけでなくSIAMの戦略目標との関連性が整理されていると経営層にはよりわかりやすくなります。
投資効果(ROI)
経営層にとって、投資効果(ROI)は意思決定する際の重要要素となります。現状のサービスコスト(運用コストなど)を可視化したうえで、あるべきSIAMモデルを適用した場合に発生するコストを算出し、コスト削減効果を可視化します。下記はアクセンチュアでアセスメントなどを実施した際に作成する成果物イメージの一部ですが、これらの情報を整理するためには契約情報や支払い実績、明細などを収集する必要があります。
ハイレベルなロードマップ
ハイレベルなロードマップとは、具体的な移行スケジュールではなく、SIAM移行の主要マイルストーンとその時点で実現できていること(期待効果など)を整理する程度をイメージいただければと思います。通常は、大きな変化点をマイルストーンとして、対象のサービス移行が完了までを一定の単位(半年・1年など)で定義します。
リスク
ハイレベルなSIAMモデルへ移行する場合に想定されるリスクを記載します。影響を受ける組織および利害関係者の単位で整理するのが一般的です。具体的には、事業部門へのリスク、IT部門へのリスク、SIAM環境に対するSIのリスク、SPリスクなどが挙げられます。
重要成功要因(CSF)
重要成功要因とは、組織がSIAM移行を完遂するために必要な要素を指します。例えば、「顧客組織、SI、SPの役割分担が明確であること」、「SIが信頼できる高いスキルとリソースを保持していること」「顧客組織、SI、SP間でそれぞれ信頼関係が構築されていること」「契約違反や法的な制約に該当しないこと」などです。
ここまでビジネスケースの記載項目および内容についてご説明いたしましたが、具体的なイメージは掴めましたでしょうか。1つ注意していただきたい点としては、実務的には記載内容および各項目の深さはSIAMで定義されている内容を網羅する必要はありません。目的は経営層に承認を得るための情報を提供することです。自社内の投資判断プロセスとしてどこまでの情報が求められるかに応じ、内容を最適化していただければと思います。では、ここからは軽く触れていた「ガバナンスフレームワーク」と「現状の整理」の2つのテーマについて、より詳しくご説明いたします。