「理想科学工業」といえば、「プリントゴッコ」を思い浮かべる人もいるだろう。残念ながら、同社では平成24年12月にプリントゴッコ事業を終了している。昭和21年に謄写印刷の会社として始まった理想科学工業は、昭和30年代には印刷装置の開発、販売を行う製造業へと変化した。現在の主流製品は高速カラープリンターの「オルフィス」、デジタル印刷機の「リソグラフ」だ。顧客先で稼動しているこれら製品には各種センサーが搭載されており、今ではIoT機器となっている。それらから得られる大量データを、いかに活用しビジネス価値に変えるか。これは理想科学工業にとって、新たな課題だった。
IoTデータ活用のためにAsterを導入、コンサルの支援も力に
センサーから得られる機器のデータは、まずはRiso Remote Agent(RRA)のサーバーに蓄積される。たとえば機器で何らかのエラーが発生した場合は、すぐにそれがアラートとしてオペレータに通知されるようになっているのだ。RAAサーバーに蓄積されたデータは、夜間バッチ処理でテラデータのデータウェアハウスに集められる。その他の顧客の情報、さらには故障時にエンジニアが行った現地対応で明らかになった故障原因や対処内容なども、テラデータのデータウェアハウスには蓄積される。
理想科学工業では蓄積されたデータに対し、BIツールなどを用いた見える化は行っている。とはいえ、せっかくリアルタイムに集められるセンサーデータをさらにビジネスに生かしたい。それが十分にできていないと感じていた。データを活用して具体的に実現したかったのは、機器の故障を予測して修理のベストプラクティスを取得すること、契約内容や機器の利用状況などを分析し離反顧客の事前の検知を行うこと、そして営業担当などが活用できる顧客ごとに最適化したコミュニケーションレポートのタイムリーな作成だった。

右 理想科学工業 コーポレート本部 情報システム部 システム一課長 久住幹雄氏
これらを実現する新たなデータ分析のために、同社が選んだのは「Teradata Aster」だった。高度な分析環境にAsterを選んだ理由はテラデータとの親和性が高くデータのやり取りが容易だったことだ。さらに「Asterには分析の関数が多数用意されていることも選んだ理由です」と言うのは、理想科学工業 コーポレート本部 情報システム部 システム一課の庄司朋子氏だ。
理想科学工業には、いわゆるデータサイエンティストと呼べるような人材はいない。これまでに、高度なデータ分析を行った経験もなかった。一方でテラデータに対しSQLを書きデータに自由にアクセスできる技術者はたくさんいた。Asterなら、使い慣れたSQLが利用でき、SQLの引数に指定することで高度な分析関数が使える。「我々のSQLが書ける技術者でも、データ分析が行えそうだと言うのもAsterを選んだ理由です」と庄司氏は言う。
機械学習などを行いたければ、商用のAsterを導入しなくても、今ならオープンソース・ソフトウェアを活用して実現できる。実際、庄司氏は自身でRやPythonを使いデータ分析を試してもみた。たしかにオープンソース・ソフトウェアでも機械学習技術の検証などは行える。しかしそれを本番の業務に組み込むとなれば、ツールは何にしてそれを動かすクラウドはどれを選ぶかなど、ビジネス要件に見合うデータ活用環境のエコシステムを自分で考え組み立てなければならない。
また、そもそも理想科学工業にはデータサイエンティストがいないのも問題だった。すぐには、優秀なデータサイエンティストが採用できるわけではないだろう。社内で育成するのにも時間はかかる。そうであれば分析環境にAsterを選択して、まずは面倒が技術の組み合わせなどを考える必要をなくす。その上で当初のデータサイエンティスト役の部分も、Asterを使いこなせるテラデータのコンサルタントに依頼する方法で、素早くIoTのデータ活用に取り組むことにしたのだ。
「自分たちには高度な分析の能力がまだありませんでした。そのため、そこは誰かの力を借りなければならないと考えました。そこで高度な分析部分はまず、テラデータのコンサルタントにお願いすることにしたのです。そしてデータ分析から得られた知見となる結果をビジュアライズするところや、分析のためのデータを集めるところは社内で行うようにしました」(庄司氏)
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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