「攻めのデータ活用」とは誰もが創造的になれる基盤があること
近年、よく耳にする「攻めのデータ活用」とそのための基盤づくり。その真意について、Tableau Japan株式会社 アソシエイト セールスコンサルタントの田中香織氏は改めて問い直す。
データや統計に詳しい人がデータを活用できるようになることとすれば、一部の人だけがデータを使える世界というのは本当に意味があるのだろうか。逆に、すべての人が高度なデータベーススキルやPythonを書けるような世界になることだとしたら、本当にそんなことができるのだろうか。
田中氏が考える、「攻めのデータ活用」が実現している世界とは、「すべての人が自然な思考と動作でデータから世界を理解し、個々人なりのクリエイティブなアイディアを創出するのを助ける基盤があること」だという。そのように考えた背景には、自身の経歴・経験があるようだ。Tableau Jedi Masterと称し、Tableauの正しい使い方を広めることを使命とする田中氏は、データの視覚化で社会貢献を目指すViz for Social Good東京支部のリーダーとして指名がかかるなど、データ活用の活動普及において高い評価を受けている。しかし、決して技術的に優れたスキルを持つわけではないという。
「私はSQLやPythonなどにおいて高いスキルを持つわけでもなく、統計学を大学などで学んだわけでもありません。しかし、そんな私がデータの視覚化などで評価を得て、データの活用を語る場に講師として登壇することができたのか、自身の経歴を話すことから紐解いていきたいと思います」と田中氏は語る。
もともと絵を描いたり、物語を作ったりすることが好きだった田中氏は、特別なビジョンも持たずIT企業に入社することになる。そこでプログラミングの基礎などを学んだものの、プロジェクトの本質的に解決したい課題を見出すことができず、仕事に対してやる気を出すことができなかった。仕事に対する価値を見出せず、プロジェクトから外される事もあったという。
しかし、そんなある日、ふとしたことから出会ったのがTableauだった。その出会いについて、田中氏は「人生が変わった」と熱く語る。Tableauは、田中氏がもともと持っていた絵や物語を創出する力を活かし、自由な発想やアイディアを引き出してくれたのだという。
「Tableauに出会う前は、自分の能力が仕事に役に立つものだとは思っていませんでした。しかし、人に何かを伝えるために、魅力的なビジュアルや物語をつくる能力がどれだけ役に立つのか、Tableauは気づかせてくれました。Tableauによって私は自分の能力を開花させることができたのです」
他にも効率的に仕事を終えられるようになり、家族との時間を多く持つことができたという人、多くの人と知り合い世界が広がったという人などもいるという。田中氏いわく「Tableauは人の仕事を置き換えるツールではなく、様々な人の人生にポジティブな変化を起こす道具」というわけだ。
すべての人のデータ理解に有用な「視覚化の力」
田中氏の創造性を引き出すきっかけとなったTableauは、なぜ、そのようなことができたのか。田中氏は「すべての人がデータを理解できるようにすることがTableauの基本コンセプトだったから」と分析する。人は好奇心を生まれながらにして持ち、わからないものに対して働きかけ、そこから何か情報を得ようとしてきた。さらに誰もがそれぞれ異なる能力を持ち、得意とするものを持ち、そうした個々の力を生かしてコラボレーションすることで新しいアイディアを生み出し、それぞれ関わることで満足を得てきた。今まさに、データを理解することが世界を理解することにつながりつつある中で、そのデータをあらゆる人が理解し、そこから新たな創造性を発揮できる時代にある。
「しかしながら、データはどんどん増え続け、その本質を捉えることが難しくなりつつあります。そこで重要になってきているのが、視覚化=ビジュアライゼーションです。もともと人間には生まれながらにして好奇心とともに、視覚的な認識力が備わっています。それを活かしながら、自然にデータの状況を把握させることがTableauの役割なのです」
田中氏はそのように語り、実際に視覚化の効果についてデモンストレーションを行なった。はじめに、数字の羅列を見たあとに、3の文字だけに色をつけてみる。それによって、私たちはすぐに3がある場所や数量まで一瞬にして把握できることがわかるだろう。この現象について、田中氏は脳の働きによって起きるものだと解説する。
脳の記憶のプロセスには、Sensory、Short-Term、Long-Termの3つがあり、その中でもSensoryは考えなくても無意識に反応が生じるものだ。前出の色がつけられた3を一瞬で認識できたのは、この能力のおかげとなる。いくつかの視覚属性をうまく活用することでこのSensoryに効果的に働きかけることができる。世の中のすべてのチャートはこれらの視覚属性の組み合わせにより成り立っており、上手く活用できているものほど直感的にデータが示すものを伝えることができるというわけだ。
このような視覚化が簡単に行えるべき理由として、田中氏はShort-Term記憶の特性をあげる。Short-Termはその場で考え、すぐさま認識できるという利点がありながら、しかしながら数秒後には忘れてしまう、また他の情報が入るとかき消えてしまうという弱点も持っている。多くのものをキープしておくことができないわけだ。
たとえば、ある数字を覚えておかなければならない状況で、筆算をするとしよう。すると覚えておくべき数字がじゃまになって計算に集中できないという事象が発生する。しかし、その数字を紙に書いておけたらどうだろう。筆算という作業に集中して効率があがる。また、クリエイティブな作業においても、一度頭の中のモノを取り出して考えることでそれを見て再度理解を深めることができ、他者とも共有できる。
つまり、人は思いついた様々なアイディアをどんどん外にアウトプットして、書き留めることで、自分の頭でしか考えられない次の新しいアイディアを考えられるようになる。そのためには、そのアウトプットができるだけ簡単にできるようにすることが必要だ。
たとえば、鉛筆で線を書く時、考えたように線を引くことができ、フィードバックもシンプルであるものをあるように理解できる。しかし、データを見るときにはどうだろう。ともするとテクノロジーからはそうした自然なフィードバックが得られないことも少なくない。そうなったとき、自分が何を知りたかったのか、思考が離れてしまう。つまり、アウトプットもフィードバックも、自然であることはとても重要なこと。線を書くときのように、自然な動作の中で理解できることが求められる。
「大量のデータを眺めても直感でそれが意味するものを理解できる人はほぼいません。つまり、自然な動作でデータを勝手に視覚化して、直感的に理解できるようにしてくれる新しい道具が必要です。そうした理由で生まれたのがTableauなのです。Tableauはフランス語で“絵”という意味です。キャンパスに絵を描くように表現することができるのです」
人の自然な行動に寄り添い、おすすめの操作やデータをリコメンド
田中氏はここで「売上データ」をもとに、Tableauの視覚化の力をデモンストレーションしてみせた。気になるところをどんどんクリックするとより深掘りすることができ、自動的にグラフなどに視覚化され、すぐさま状況を把握することができる。見方についても試行錯誤しながら、よりわかりやすい方法を工夫してみることができる。田中氏は「やりたいと思ったことを、子どもが積み木を積むように自然と行なえるようになっています。操作しているうちに様々なイメージやアイディアが浮かんできます」と自然な操作性と視覚化のわかりやすさを強調した。また画面上にはたびたび何かを知るための手助けとして、リコメンデーションが示され、新しい気づきを誘導してくれる。
「『どうやって操作するの』と思った瞬間に、やりたかったことがわからなくなってしまうもの。テクノロジーあるあるとして、新しいものが登場するとそれをつくることに専心して、本来の目的を忘れがちです。おそらく初期の頃のBIツールが普及しなかった理由もそのあたりにあるのではないでしょうか。しかし、テクノロジーの進化とともに機能はもちろんながら、人にとってより自然な動作を受け入れることが可能になってきています」
ケータイがスマホになり、キーボードが音声入力へと進化するように、人の自然な行動に寄り添うようになってきた。そしてもう1つ重要なのは、リコメンデーションだ。機械学習やAIなどにより、テクノロジー側から「次はこうしてみたら」という提案がなされるようになってきている。たとえばSQLサーバから何か必要なデータを取り出さなければならない際に、数多くの中から探し出すのは大変であり、担当者に聞くのもはばかられる。そんな時にリコメンデーションが役に立つ。その内容も様々で、データや操作法はもちろん、データの統合の仕方や間違いまでも、リコメンドや指摘をしてくれるという。
「データを分析する時にどうしても必要なのが、データを加工することです。しかし、多くの人がどのようにデータを加工していいかわからず躓いてしまいます。そこで、実際にデータをマージする際の加工の仕方を教えてくれたり、万一不整合なデータを統合しようとしたときにはアラートをあげてくれたり、データの加工についてリコメンドしてくれるなど、データや分析などについて、詳しく知らない人でも簡単に分析を進め、そこに現れた分析内容についても理解していくことができます」
ときには、データの加工が本当に必要かどうか、知りたいことについて、詳しい他人が整理したレポートまでもリコメンドしてくれるという。
誰もがデータを理解できる世界で創造性を解き放つ
そして、次にTableauが目指すのは、パソコンによるキーボード入力やマウスなどによる操作をなくし、誰でも簡単に自分の知りたいことを知るための方法だ。たとえば、技術の進化により、スマホなどでは音声認識が普通になっており、自然言語で様々なことを操作できるようになってきている。同じことをTableauでも目指そうとしているという。
その第一歩としてTableauでは、自然言語処理を用いた新機能「Ask data」が近々提供予定だ。もともとTableauはドラッグ&ドロップするだけでデータ分析を可能としていたが、「Ask Data」は検索ボックスに入力すれば自動的にデータを分析してくれる。既にβ版が登場しており、ダウンロードすれば利用が可能となっている。この「Ask data」について、田中氏は実際にその様子をデモンストレーションしてみせた。ダッシュボード上のボックスに、「昨日の売上は?」「地域ごとの売上は?」と入力すると、分析されたデータが表示され、可視化してわかりやすく見せてくれるというわけだ。
田中氏は「こうした技術の進化は、あらゆる人がデータを使いこなせる時代がもうそこまで迫っているということを示しています。Tableauがグローバルで公表しているBIトレンドは10項目あり(参考記事)、今日お見せした機能はほんの一部ですが、スマートアナリティクスは決して難しくないということを知っていただければと思います」と語り、「人間が本来持っているナチュラルな好奇心やフィードバックを求める意思などに対し、スマートアナリティクスが役に立つものと確信しています。人とテクノロジーが自然に融合し、人が自分らしくあるために自らの強みを発揮できることが、攻めのデータ活用への第一歩だと思います。Tableauは、そのためのテクノロジーでありたいと考えています」と結んだ。