プロジェクト始動の経緯
昨年10月29日、Caselaw Access Project https://case.law(CAP)は、アメリカ植民地時代にはじまる360年間650万件の判例を、テキスト・データ化して公開した。このプロジェクトは、ハーバード・ロースクールの図書館(the Harvad Library innovation Laboratory)と、スタンフォード・ロースクールのプロジェクトからスピンアウトしたRavel Lawが共同して、ハーバードの蔵書4万冊の背を切り落とした4,000万ページを、高速スキャナで1日10万ページ2年間をかけて読み込み、データ処理を施して現段階に至ったものだ。
アメリカで最初に設立された大学でもあるハーバードは、米国議会図書館を除けばもっとも充実した判例集を所蔵している。そもそも紙媒体化されなかった初期の判例等を欠いているとはいえ、CAPはアメリカの判例をほぼ完璧にデジタル化したことになる。
判決文は、誰もが理解しなければならない判例「法」が記載された公文書だ。にもかかわらず、そのアクセスには費用がかかったり(連邦裁判所の記録であれば、1ページ10セントのpaywall)、自由とはいえない状況にあった。これをなんとか変えようというムーブメントが、2008年までには明確になってゆく。
https://archive.org/stream/GuerillaOpenAccessManifesto/Goamjuly2008_djvu.txt
このような中で、開かれた法情報環境を実現する具体的な方法を模索していたハーバードと、これに賛同したRavel Lawの対話から生まれたのが、今回のCAPの企画だ。
スタンフォードの学生だったダニエル・ルイス(Daniel Lewis)がロー・スクールで初めてリーガル・リサーチをする段になって驚いたのは、子供のころ見ていた両親の仕事(ルイスの父母は弁護士)とあまりに状況が変わっていない、ということだった。データベースで関係判例を大量に集めたら、それをマーカーと付箋で読み進めてゆくアナログな分析手法。そこにブレイクスルーを見いだそうと、ルイスは模索を始める。