ビジネストランスフォーメーションの必要性を(身を持って)訴求
「Photoshop」や「Illustrator」といったクリエイティブ分野と、「Acrobat DC」などのドキュメント分野でビジネスを展開してきたAdobe。2009年からはデジタルマーケティング分野にも注力し、積極的な投資で製品ポートフォリオの拡充を図ってきた。2018年5月にはコマースプラットフォームの米Magento Commerceを、同年10月にはB2B企業向けマーケティング自動化ツールを提供する米Marketoをそれぞれ買収した。Marketoの買収金額は、約5300億円と報じられている。
かねてからAdobeは「デジタル体験で世界を変える」を企業ミッションに掲げ、「顧客体験」重要性を説いている。今年のAdobe Summitでは「Business Transformation through CXM(Customer Experience Management=顧客体験管理を通したビジネストランスフォーメーション)」をテーマに掲げ、顧客とのあらゆるタッチポイントで最高の顧客体験を提供するための施策が紹介された。
3月26日の基調講演に登壇した、Adobeの社長兼CEOを務めるシャンタヌ・ナラヤン(Shantanu Narayen)氏は、Adobe自身がビジネストランスフォーメーションを遂げたこと強調。「クリエイティブの領域ではリーダー的な立場だったが、パッケージ販売モデルだったために、製品リリースのサイクルが遅く、エンジニアに価値が提供できなかった。(中略)数十億ドルの収益を上げていたクリエイティブのビジネスをトランスフォームすることは容易ではなかったが、(クラウドによる)サブスクリプションモデルにしたことで、顧客体験を向上させた。その結果、顧客とのエンゲージメントが強化され、ビジネスを成功へ導けた」と振り返った。
現在、同社では米MicrosoftのBIツールである「Power BI」を活用し、「DDOM(Data Driven Operation Model)」というモデルに基づいた顧客分析を実施している。基調講演では、実際のデータが入っている(デモ用画面ではない)Power BIのダッシュボードを披露。カスタマージャーニーを可視化/分析することで、迅速、かつ適切なリテンション施策を実施できることを説明した。
死にかけた会社がデジマでV字回復
今回の基調講演で何度も強調されたのは、CXMとカスタマージャーニーを理解する重要性である。ナラヤン氏は「顧客は製品(モノ)ではなく、製品が提供する体験(価値)がほしい」と指摘する。
その言葉を具現化した事例企業として登壇したのが、米国家電販売大手のBEST BUYだ。同社のCEOを務めるヒューバート ジョリー(Hubert Joly)氏は、「米Amazonの台頭で2000年代には、(会社が)死にかけた。(中略)Amazonと対峙するために行ったのが、データを活用した、カスタマージャーニーの理解によるデジタルマーケティングだ」と説明する。
同社がAdobeのマーケティング製品を導入したのは2012年。それまでアナログが中心だったマーケティング予算をデジタルマーケティングにシフトさせた。具体的には顧客のIDを一元管理し、パーソナライズされたメールの配信やWebコンテンツの表示、さらに実店舗での購買情報やGoogleでの検索履歴のデータ統合を行った。オンライン/オフラインを問わずデータを収集し、カスタマージャーニー理解とその施策に役立てた。
一方、実店舗では「実店舗でしか体験できない」施策を打ち出した。10億ドルを投資し、店舗を「家電のショーケース」(ジョリー氏)に改造した。さらに、全国に従業員を抱える強みを活かし、「年間200ドルで家庭内の電化製品に関する相談ができる」サービスも立ち上げた。その結果、売上げはV字回復を遂げたという。
BEST BUYがデジタルマーケティングの中核に据えたのが、Adobeの顧客体験管理プラットフォームである。今回のコンファレンスでAdobeは、昨年のコンファレンスでそのビジョンを紹介した「Adobe Experience Platform(以下、Experience Platform)」(旧名 Adobe Cloud Platform)を、グローバルで提供開始すると発表した。(関連記事 https://enterprisezine.jp/dbonline/detail/10546)