NTTコミュニケーションズが取り組む「SpoLive」というビジネスイノベーション
スポーツでのIT活用は他にもある。米国メジャーリーグやNBAなどでは、ファンとのエンゲージメントにデータやモバイルアプリを活用している。バスケットボールは、試合会場がそれほど大きくない。試合を直接観戦できる人は限られ、スタジアムを訪れない膨大なファンをいかに惹きつけるかにデータとITを活用する。このあたりはアプリケーションで言えばCRMやマーケティング・オートメーションの領域、アドビなどはかなり力を入れている。
日本でもユニークなアプローチで、スポーツ観戦に新たな体験を提供する動きがある。それがNTTコミュニケーションズの「SpoLive」だ。スポーツファン向けのモバイルアプリで、AIやAR(拡張現実)などを用い新たなスポーツ観戦体験を創出する。2019年3月には、米国テキサス州オースティンで開催されたビジネスとデジタルコンテンツの祭典「サウス・バイ・サウスウエスト2019」にも展示された。
SpoLiveには、試合をより深く楽しむためのAIを活用したチャットや実況中継、ARコンテンツ使った新しいファンサービス、ファン同士の手軽なミートアップの参加・開催機能がある。リアルタイムの実況中継では、スタジアムで観戦中に試合状況がテキストメッセージでリアルタイムに届く。また「スクラムって何?」といったファンからの質問に、AIが自動で回答することで初心者でも試合観戦を楽しめるようにもする。
ARコンテンツでは、チームグッズやグランド内のマーカーにスマートフォンをかざすことで、限定コンテンツを提供できる。ゲーミング要素などを取り込み、限定グッズを獲得できるなどファンとチームのエンゲージメントを深める仕組みも構築可能だ。さらにアプリケーションを使って利用者が企画するミートアップの開催を簡単に周知したり、管理したりもできる。ファン同士の集まりを手軽に実現することで、ファンのコミュニティを作れるのだ。
NTTの研究所のAI技術も活用
SpoLiveは、NTTコミュニケーションズのラグビーチーム「シャイニングアークス」の試合会場で実証実験をしている。「現状ではどの選手がどのようなプレーを行ったかなどは、裏で人が入力し実況しています。将来的には映像などをAIで自動認識できればと考えています」と語るのは、NTTコミュニケーションズ 経営企画部 デジタル・カイゼン・デザイン室 / ビジネスイノベーション推進室 オープンイノベーションプログラム運営統括 ビジネスデザイナー、 HCD-Net認定 人間中心設計専門家という長い肩書きを持つ岩田裕平氏だ。
岩田裕平氏
ユーザーはSpoLiveの実況で送られてくるテキストメッセージで、分からない用語が出てきたらそれをタップすれば、解説をすぐに得られる。これはラグビーの実況中継のデータからあらかじめFAQを作成してあり、回答となる解説を自動生成しているのだ。回答の自動生成では、NTT研究所の日本語を高精度で理解しスムーズな会話を実現する「COTOHA」のAIプラットフォームを活用することで、質問に対し柔軟性のある回答ができるようになっている。
また試合中にユーザーはスマートフォンを見続けることはないので、それに対応するための音声ガイド機能も提供する。さらに試合中に活躍している選手の背景情報などをトリビア的に提供するなどで、チームや贔屓選手にファンを惹きつける機能も提供できる。自社にチームがあったのでラグビーから実験を始めたが、SpoLiveは幅広いスポーツに対応するプラットフォームになる。APIを提供して、たとえば既存のサッカーのJリーグアプリに機能を組み込めるようにする計画もある。
SpoLiveのビジネスモデルは、スポーツの興行などを行う主催者向けのツールとして有償化を目指す。通常のBtoBのサービスよりは安価にし、素早く簡単に利用できる仕組みを目指す。「スポーツにおけるファンとのエンゲージメントに必要となる一連のことを、サブスクリプション型のWebサービスで提供します」と岩田氏。またアプリケーションの機能を通してグッズ販売などを行い、その売り上げに対するマージンなども対価として考えいる。
「NTTグループとして、スポーツ分野には力を入れています。テクノロジーをベースに、スポーツの世界でより良いエクスペリエンスを作っていく。それで、新しいスポーツ観戦の体験を提供します。SpoLiveで、チームやリーグのエンゲージメント構築に貢献していきます」(岩田氏)
今は裏で人手により動かしているところも多いが、それらをNTTグループの技術も用いて自動化し使いやすいプラットフォームに進化させる。そのためのいくつかの取り組みは既に、フィールドで実験も始めている。またAIを使って試合中のプレーの自動認識などで良い結果が出れば、映像配信を行っている企業にそれを提供する新たなビジネスも考えられている。