将来的なパブリッククラウドの利用を視野に プライベートクラウド環境を構築
「いまから20年ほど前のクラウドは、まさに雲を掴むような話で、エンドユーザーがメリットをなかなか実感できるものではありませんでした」と述べるのは、GMOクラウド株式会社 営業部 セールスセクション プリセールスグループ チーフの渡邊 享氏だ。その後10年ほどはそのような状況が続き、その間にAmazon Web Services(AWS)などのサービスが普及、徐々にクラウドのメリットが浸透し始めた。
AWSのようなパブリッククラウドのサービスは当初、情報系 システムなどでの利用が多かった。あるいはインターネット越しに顧客にサービスを展開するECサイトなどで使われた。一方で従来から運用されている基幹系システムは、データの機密性を確保する要件などから、なかなかパブリッククラウドに置かれることはなかった。データの所在をはっきりさせて、さらにその所有権なども明確に自分たちに帰属していることが重要視されているためだ。
また、実際にパブリッククラウドへ環境を移行したくても、既存のIT部門にはパブリッククラウドを使いこなせる人材もいないという問題もあった。特に中堅、中小企業ではそういった人材の育成を行う余裕もない。こうした課題がありながらも、柔軟なリソースを利用できるといったメリットを享受しつつ、リスクを最小限にしてクラウドを活用したい企業は確実に増えている。また使用している古いOSの環境を維持するためにも、まずはプライベートクラウド化してハードウェアの制約を取り除き、その上で運用管理の手間を減らしたいと考える企業も出てきている。
こういった要望に応えるには、まずは既存のオンプレミスの環境をプライベートクラウド化して運用管理の工数を減らし、その上で適宜パブリッククラウドも活用する「ハイブリッドクラウド」の環境を選択する。そういったアプローチをとる企業が今、確実に増えていると渡邊氏は指摘する。
地域密着型のメガネ店「メガネストアー」を展開するアイ・トピアも、まずはプライベートクラウドの環境を活用する選択をした。同社がプライベートクラウド化を進めたのは、東日本大震災がきっかけだった。当時アイ・トピアのITシステムは、東京町田の本社に設置されていた。町田は震災後、計画停電の対象地域となる。計画停電へのITシステムの対応では業務運用にも大きく影響を与えることになり、情報システム部では大きな苦労をすることになったのだ。
株式会社アイ・トピア 情報システム部 マネージャーの池田 渉氏は、「今後、自社内にこのままサーバーを置くことが良いのか検討しました。ちょうどハードウェアの保守期限も迫っており、サーバーの調達から環境の構築をまた一から行うのかというのも課題でした。そこで、まずはハードウェアから解放される新たな環境を検討したのです」と当時の状況を述べる。実は震災前から、 将来的なクラウドの利用について同社では考えていた。震災がクラウド化のプロジェクトを一気に進める後押しをしたのだ。
当時はクラウドという言葉は普及し、運用負荷が軽減されるとのメッセージは伝えられていた。しかしまだプライベート、パブリックの違いなどは明確化されていなかった。そのような中でアイ・トピアの移行対象は、DNSサーバーなどを除けば業務に直結する基幹系システム全てだ。基幹系システムの重要な情報をパブリッククラウドに置くことには、セキュリティやコンプライアンスを確保する上でも懸念があった。
「電力、運用管理、セキュリティ、さらには防犯面などについては、クラウド環境は外にあるけれど全て自分たちでまかなうよりは安全性は高い。そしてクラウドでもプライベートであれば自社専用の環境を利用できるので、リスクも抑えられると判断しました」(池田氏)
日常的なハードウェアの保守作業から解放され、運用負荷が軽減
いくつかのサービスを比較して、アイ・トピアが選んだのはGMOクラウドだった。「当時のクラウドのサービスは、クラウドと言ってもサーバーレンタル的なものがほとんどでした。GMOクラウドは、柔軟なリソースを提供するサービスになっている点を評価しました」と池田氏は述べる。GMOクラウドではサーバーごとに契約するのではなく、トータルのリソースを決めその中で必要なサーバーを構築できるようになっていた。そのため、まずはテスト環境を小規模で始め、その後に本番環境に拡張するといったことも容易に行えたのだ。アイ・トピア 情報システム部 マネージャーの中村篤史氏は、「SLAのレベルが高かったことも採用のポイントでした。それと実績があったことも、採用する上での安心感につながりました」と述べる。
アイ・トピアでは2011年夏頃から具体的なクラウドの検討を始め、9月からGMOクラウドへの移行を開始、2012年1月にはほぼ全てのオンプレミスにあった環境の移行を終了した。オンプレミスから移行するにあたり、大きな苦労はなかったと中村氏は振り返る。しかし、これまで手元にあったハードウェア機器がリモート環境に変わったことで、慣れるまでは多少戸惑いもあった。また机上で計算はしていたものの、大量データの移行は実際に行ってみないとどれくらいの時間がかかるかがはっきりしなかった。そのため「結果的にグループウェアの移行では、半日ほどサービスを止めざるを得ない状況も発生しました」という。
クラウド化により手元にハードウェアがなくなったことで「故障などのトラブルを気にする必要がなくなったのは、大きなメリットです」と中村氏は言う。トラブル時にサーバーのコンソールを開き再起動するといった作業もなくなり、サーバー機器の保守・メンテナンスをしなくて良くなったことでの負担減は大きい。さらに時間外での緊急対応といったことも、これまでのところ発生していない。このように日常的な運用管理の負担が減ったことで、急ぎの対応などのためにこれまで手が出なかったような業務も行えるようになったのだ。
またクラウド化によるコスト面のメリットとしては、コストを平準化できたメリットが大きいと池田氏は言う。クラウド化で大幅にコストが減ったとは言えないが、クラウドへの移行を開始した当初よりもクラウド上で動かしているサービスは増えており、さらに可用性、信頼性も上がっている。その上で管理の手間も減っているメリットを考えればトータル的にはコスト削減と言える。さらにかつての5年ごとのハードウェア調達と移行作業の繰り返しでは、周期的に大きなコストと手間が発生していた。それが、平準化できたことで保守・運用コストの偏りもなくなり、計画も立てやすく予測もしやすくなったと評価する。
今後はSaaS なども活用、期待されるプライベートクラウドとの連携
GMOクラウドのプライベートクラウド環境は、これまでのところ安定して運用できている。基幹系システムについてはこのままプライベートクラウドで稼働させる予定だが、今後はパブリッククラウドの利用も検討している。基幹システムを補完するような周辺のシステムについては、適材適所でSaaSなどを活用する。
「パブリッククラウドだけで、全てのシステム環境が完結するとは考えていません。プライベートにある基幹系システムといかにスムースに外部のシステムを連携させるのか。SaaSは運用も楽で資産も持つ必要がないので、メリットが大きいと考えています。一方で、SaaSを活用するためには各システムで保有するデータをきちんと連携していく必要があり、そうしないと場合によっては二重入力となり無駄も発生するでしょう」(池田氏)
そのためGMOクラウドには、プライベートとSaaSなどのパブリックな環境とのスムースで安全な連携について、提案が期待されている。中小規模の企業などで十分なリソースがなければ、自分たちだけではさまざまなサービスについて調べ切ることはできない。そのため、ベンダーの広い視野で最適な組み合わせを提案してほしいと期待を述べる。
GMOクラウドでは、アイ・トピアのそういった要望に応える準備はしていると渡邊氏は述べる。たとえばAWS環境とのダイレクトコネクトで安全で高速なデータのやりとりを可能にするサービスや、SaaSなどの複数のサービスを利用している環境でのシングルサインオンで利便性を高めるサービスなどが既に用意されている。
「顧客からは企業の外接ポイントを集約し、セキュリティマネジメント、企業ガバナンスを機能させたいとの声があります。そのためにGMOクラウドをハブとして、さまざまなパブリッククラウドのサービスをスムースに活用できるような提案をしていきます」(渡邊氏)
アイ・トピアでは地域に密着した店舗でのビジネスを展開してきたが、今後はデジタル化の部分にも力を入れ、より顧客とのつながりを強化する。そのためにも新たなITシステムの活用は重要となる。こうした状況の中で、情報システム部では新たなデジタル化のシステムも積極的に用意していかなければならない。それらを活用するためには、基幹系システムとの連携が成否の鍵となる。新しいデジタル化のためにも、デジタル変革のためのパートナーとしてのGMOクラウドの存在に期待がかかっている。