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アナリティクスの巨人SASが捉えるIoTの現在地と成功への展望

大気・水と交通を改善:中国無錫市のスマートシティ

 IoTプロジェクトにはどのようなものがあるのか? マン氏は中国南部にある無錫市のスマートシティプロジェクトを紹介した。

 無錫市は”High-Tech Zone”としてハイテク地域を設けており、SASは2017年頃から同市のIoTのパイロット展開で技術を提供している。無錫市が目指すのは、インテリジェントかつグリーンなエコシステムと経済発展。市内数千か所に分散して設置したセンサーからのデータを活用して、大気汚染、水質、人の動きといったデータを集めて、市が目標とする大気や水質のレベルを満たしているかを測定する。

 データを活用して交通を管理するなどのことができる、とマン氏は説明する。製品は「SAS Analytics for IoT」を採用し、IoTデバイス、ネットワーク、アプリケーションとデータを解析して、意味のある洞察を得ているとのことだ。

 この一環として、SASはデータの収集と解析、そしてIoT技術を展示し、製造、公益事業、輸送などの導入を促進する「SAS Wuxi IoT Innovation Center」を共同で立ち上げている。マン氏によると無錫市は、既存のプロジェクトの成功を次の投資に回す”セルフファンディングモデル”をとることで、適用範囲を拡大させているとした。

 無錫市ハイテク地域のスマートシティプロジェクトが評価されたことで、SASは中国政府の投資プロジェクト支援にも関わっているという。ここでは、中国政府が投資企業の成功やリスクを分析するために、無錫市と同じようなIoTインフラを使って人の移動、建物の水や電気の使用量、トラックや輸送状況を見ているとのことだ。

 この他、スマートシティではSASの本拠地があるノースカロライナ州ケーリーが水道メーターで採用した事例がある。また、ボストンのパブリックスクールでのスクールバスの運行効率化もあり、欧州では自転車のシェアリングプロジェクトで在庫状況の予測などが始まっているという。

製造を中心にクローズドなIoTが先行する日本

 日本でのIoTは、製造業が先行しているようだ。日本の状況について説明した松園氏によると、「2016年頃から製造業での活用例が増えており、製造工程の品質改善、整備保全で使われています」という。

SAS Institute Japan グループマネージャー ソリューション統括本部 IoTソリューショングループ 松園和久
SAS Institute Japan グループマネージャー
ソリューション統括本部 IoTソリューショングループ 松園和久氏

 例えばブリヂストンではSAS Analytics for IoTを使って設計データ、材料加工に関するデータ、タイヤの生産工程で得られるデータなどを学習し、製造プロセスの改善に役立てているそうだ。「導入前に比べると、NG率が大きく減少、製造品質が大幅改善したという声をいただいている」と松園氏。コニカミノルタジャパンでは、アフターサポートの顧客満足度の改善を目的に導入した。出力枚数予測に基づくトナーなどの部品交換の最適化などにより、顧客の元に置く予備を最適なタイミングで配送できるようになるなど、すでに成果が出ているという。

 これらは工場や一企業の特定のサービスといった、ある特定の範囲に限定した「クローズド」なIoTだが、それには理由もある。「企業間や公共の場でのスムーズなデータの交換ややり取りができる環境の構築が途上」(松園氏)であるからだ。そのための標準や規制ができれば、1社の枠を超えたつながりや連携が可能になっていくだろうと予想する。

 「日本におけるIoTは段階を経て進んできています。センサーでデータを収集し、その後PoC(概念実証)でROI(投資対効果)を確認して、フィジビリティスタディを行い、どのような機械学習や深層学習技術が必要かを見る。現在、このフィジビリティスタディを、次はいかに実装するかに関心が高まってきたことを感じます」(松園氏)。本番環境で動かすための仕組みの構想に入りつある、とまとめる。

 このような産業向けIoTだけでなく、松園氏によると、このところスマートシティに近い、コンシューマー向けのIoTの実証実験の機会も増えているという。SASジャパンとしてもこの分野を強化していく狙いだ。

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アナリティクスの深さと幅が強み

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この記事の著者

末岡 洋子(スエオカ ヨウコ)

フリーランスライター。二児の母。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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