社会情報学と観光学、ダークの旅路
インタビュイー:井出 明(いで あきら)金沢大学准教授(観光学) インタビュアー:鈴木 正朝(すずき まさとも)新潟大学教授(情報法)
人の移動を誘発する情報と観光
鈴木:井出先生、本日はよろしくお願い致します。井出先生は、日本のダークツーリズムを牽引し、多数の本を書かれております。現在は、観光学をご専門にされておられますが、もともとは情報学を研究されていたと伺いました。
井出:ドクターが情報学だったので、学位は情報学、京都大です。学部は経済で、マスターが法学研究科でした。博論は「高度情報化社会における適切な情報の流通について」というタイトルで、鈴木先生がやられている個人情報保護法やデータプライバシーも含まれていますね。
鈴木:今回は、「井出明、心のダークツーリズム」と題しての対談というかインタビューです。というか、先生30分遅刻ですよ。自民党本部の前で職質されていたとか。のっけからダークっぽさが漂っておりますが、本日は先生のダークサイドなども語っていただければ。情報学に足を踏み入れた頃はどういうテーマのものを書いていたんですか。
井出:防災情報とか個人情報とかです。その頃だとセカンドライフのような、サイバーシティの話を。当時京大が実験的に京都市内のグーグルストリートビューのような地図を作っていて、人の住宅がウェブ上で見えてしまうと問題が生まれるのではないか、などですね。当時はこの分野について書いている人がいなかったので、何を書いても怒られず、書けばIEEEの国際会議で採択されたので、それを和訳したのち、全体構造を書き足し、結論を加えて博論として出しました。
鈴木:それで井出先生は、情報学の先生としてスタートしたわけですよね。
井出:ええ、最初は情報学の先生として東海大に就職しています。18年ほど前、東海大の熊本キャンパス着任しました。大学教員になればあとは余生と思っていたので、のんびり暮らそうと趣味で観光の研究を始めてですね。その後、公募で大阪経済法科大に入って情報法と知財法を2単位ずつ教えていました。当時から趣味で観光の論文を書き始めて、観光学の蓄積が徐々に増えてきていましたね。
大阪経済法科大に3年ほど在籍した後、近くの近畿大から声がかかって移り、経済学部の情報システム論の教員として、社会情報学とコンテンツ産業論を教えました。コンテンツというのは誘客力、集客力がかなりあります。例えば、地方の映画祭やアートフェスティバルといったコンテンツは人を移動させられる。当時はこれらをアートマネジメント学会という学会で、主にアートと観光という観点から発表をしていました。情報の力で人が動くということを色々なところで書いておりました。人の移動を誘発するという情報の研究でありながら、観光の研究ともいえますね。モバイルナビゲーションシステムが出始めた時には、これは観光に使えるのではないかと、その可能性を研究していました。
観光学の教員には首都大からです。当時、観光とITの業績がある人がほとんどいなかったので、採用はされたもののオリンピックに懐疑的な私はすぐに居づらくなりました。研究室も倉庫のようなところにされて在外研修もたち消え。住み慣れた関西に戻ろうと思い、公募で追手門学院に行ったんですが、昨今の新聞報道にある通り、大学の状態も大分変わってきまして、また移籍をすることになりました。あっ、私は退職勧奨をされてはいないですよ。金沢大学が観光学に力を入れると聞き、こちらの大学に移ってきました。これがダークの旅路の大体です。
鈴木:大学をよく移られているのはそういうことだったんですね。何か行く先々で不祥事を起こしているのかと思っておりました。そんなにダークでもないのですね。
井出:そうですよ。
鈴木:観光学に転向されてどうですか。情報学の研究は活きていますか。