GISと3次元点群データを活用した「インフラドクター」
一般的にコンクリート製構造物の耐用年数は50年程度が想定されている。構造物が海に近かったり、交通量が多かったりといった条件によって実質的に運用可能な年数は異なるものの、丁寧に修復して使えばより長く使え、コスト面でのメリットも大きい。
日本の交通インフラは高度経済成長期、東京オリンピック(1964年開催)に合わせて建設が進んだ。そのため多くの構造物が建設から50年をゆうに越えている。突然橋が崩落するような事故こそ滅多に起きないものの、過去にはトンネル内でコンクリートの天井版が崩落する惨事もあった。2019年には台風で損傷した橋や道路も少なくない。災害の多い日本ではより一層、構造物のひずみやひび割れのいち早い検知や補修が必要だ。一方で、国内は少子高齢化で作業員が足りないという切実な問題もある。人手の確保には限界があるため、作業効率は高めていかなければならない。
そういった課題観のもと、首都高速道路グループではインフラ構造物の点検保守の最新鋭化に取り組む。2017年からスマートインフラマネジメントシステム「i-Dreams」の運用を開始し、そのコア技術である「インフラドクター」は、国土交通省が進めている「i-Construction」(ICT活用を建設現場に導入して生産性を高めるなどの取り組み)を体現しており、インフラメンテナンス大賞 総務大臣賞などの受賞歴もある。
首都高速道路 技術コンサルティング部 部長 田沢誠也氏は「インフラドクターは測量技術と3D CADの技術を組み合わせたのが特徴です」と話す。インフラドクターとは、移動計測レーザースキャナで取得する3次元点群データと、同時撮影した全方位動画をクラウド上で一元管理し、情報を地図上で可視化するGIS(地理情報システム)プラットフォームを組み合わせたシステムだ。地点ごとの詳細な路面状況が分かり、地図上にわだち掘れの陥没の度合いを色分するなどして視覚的に分かりやすくアウトプットする。3次元点群データは3D CADなどで活用されている技術で、一般的には工場内のレイアウト変更記録や洞窟探査などにも使われている。
加えて、8Kカメラで撮影した動画をひび割れなどの変状を検出することで、3次元点群データでは判定が難しいひび割れの検出を行う技術の開発も進む。コンクリートのひび割れは重要な点検項目だ。静止画の解析から変状を検知する技術は他でも進んでいるが、8Kカメラの動画解析は新しい。
約100人/日のリソースを削減、蓄積データは災害時の重要情報にも
解析結果は台帳データに記録される。台帳には、これまでに蓄積してきた大量の点検データや補修履歴なども紙の設計図からデジタルデータとして記録されており(古いものだと「青焼き原図」)、検索の効率化にもつながる。これまでは社内に設計図を格納した倉庫に人が足を運び、何時間も設計図を探していた。
データの蓄積が進むほど、経年劣化の進行の把握もできるのも利点だ。さらに、首都高の構造物は100%設計図があるため該当しないものの、山道の法面や道路にはみ出した木々などの設計図がない構造物の形状を記録できるため、「現状の道路や周辺建造物の点群データ及び動画を一度把握しておくだけでも災害復旧など緊急時にも役立てられます」と田沢氏は可能性を語る。
インフラドクターの路面性状調査は調査結果を出すだけではなく、その後の打ち替え必要面積の算出、工事費用の算出、ひいては補修計画の立案にもつなげている。従来、点検の計画から調査、報告、補修計画まで159人/日かかっていたところ、インフラドクターで調査部分が大幅に圧縮でき58人/日まで短縮できたという。
ちなみにデータの規模だと、首都高の定期点検で生まれるデータはおよそ10TB。首都高は全長320kmで、定期点検は高速道路上4回と高架橋下部を2回ずつ点検するため一度で約2000km分だ。最新鋭のレーザースキャナはレーザーを1秒間に200万発を発射して細部の確認を行っている。