沖縄は「観光×デジタル」による産業育成をめざす
「ResorTech」(リゾテック)とは「リゾート×テクノロジー」を意味する。観光とITを掛け合わせることで、沖縄県が地域の振興とIT産業を育成していくという目的のもと、130社を超える企業が協力し、2日間で8800名の来場者(主催者発表)が集まった。
沖縄県では情報通信産業の育成という基本構想の中で、IT関連企業の実証事業、導入支援、スタートアップ支援、人材育成を行っているが、今回のイベントを皮切りに「ResorTechというコンセプトで、沖縄発のイノベーションを世界に発信していきたい」と玉城デニー沖縄県知事は語る。
ただ、多くの地方自治体が地方創生の名の下、地域産業の育成に取り組む中、目覚ましい成果をあげることはなかなか難しい。最大の課題は、地方に根付く企業と人材の育成だ。沖縄県を観光とITで成長させるための人材をどのように引き入れていくのか。IT系の企業が沖縄で事業をおこなうメリットは何か。
実行委員会委員長の稲垣純一氏はこう語る。「社会課題を解決するためのアプリケーションと観光分野のアプリケーションの共通点は多い。まず観光分野で活用されることで開発コストも下がり、普及が促進される。沖縄でのITの取り組むことで、今後の課題解決の方向性が見えてくる。そのことをIT系のエンジニアや若い人に知ってもらって集まってもらいたい」
KDDI/沖縄セルラーが語る、「5Gの戦略ルート」としての沖縄
オープニングのセッションでは、KDDIグループ 沖縄セルラー電話 常務取締役の山森誠司氏が登壇。
KDDIの移動体通信事業を担う沖縄の総合通信会社である沖縄セルラー電話は、現在沖縄での5G通信の促進に力を入れている。今年の3月から始まる5Gの取り組みとして、2023年までに基地局を5万局設置していくKDDIだが、沖縄はその中でも重要なインフラになると山森氏は言う。その取り組みとして、5Gの大容量時代に対応するため、沖縄本島と九州間の大容量ケーブルを新設する。従来の東側のケーブルに加え、西側に既存ルートの10倍の伝送速度を持つケーブルを新設し、この4月から運用を開始する。
またデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みとして。2019年に「KDDI DIGITAL GATE」を沖縄セルラービル内に開設。そこでは県内の企業や自治体と共にアジャイル開発をおこなっているが、さらに2021年には那覇の中心部に「沖縄セルラーフォレストビル」を竣工する。これらの拠点と、東西ルートの海底ケーブルをループ状につなぎ、高信頼性の5Gネットワークを構築する予定だという。
SCSKが語る「ニアショア、BPO、クラウド拠点」としての沖縄
SCSK 代表取締役 社長執行役員 最高執行責任者の谷原徹氏は「沖縄県の強みである観光とITを掛け合わせて沖縄発のビジネスを創出するというコンセプトに共感しResorTechに参加した」と述べる。
SCSKの現在の取り組みテーマは「DX」と「イノベーション」。DXの取り組みでは、ベトナムのITサービス最大手のFPTコーポレーションとのアジア太平洋地域 ITサービス事業での包括的協働をおこない、「SCSK DXフレームワーク」を発表したことをあげた。オープンイノベーションの取り組みとしては、親会社の住友商事と協同でコーポレートベンチャーキャピタルファンドを設立。アクセラレータープログラム「HAX TOKYO」を展開していることを紹介した。
SCSKと沖縄県のつながりは長い。SCSKの前身のCSKの時代の22年前に国内で初めてのコンタクトセンターの拠点を構え、沖縄の日本国内でのITサービス拠点化に貢献してきた。その代表的なグループ企業が、「SCSKニアショアシステムズ」と「SCSKサービスウェア」、そして「ベリサーブ沖縄テストセンター」の3社となる。
SCSKニアショアシステムズは大都市圏のクライアント企業の既存システムに関する機能拡張、性能向上、保守開発を沖縄をはじめとして地方拠点で対応して、IT人材の雇用創出をおこなっている。SCSKサービスウェアはコールセンターを中心に幅広い業務のアウトソーシングサービス、ベリサーブ沖縄テストセンターは爆発的に普及したモバイルデバイスや自動車関連(カーナビなど)、各種業務システムなどの検証業務を行う会社だ。
これらの3社を含めて、沖縄で注力してきた保守開発、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)、テストといった業務は、SCSKが最大テーマとする「安心・安全」のシステム開発の根幹ともいえる。沖縄はそのための最大拠点となっているといっても過言ではない。
「沖縄の人々は人に優しく、信頼に厚い。バイリンガルの方が多いこともこうした事業に最も適している」と語る谷原社長。沖縄県の地域の特性が、同社の重視する「安心・安全」の基盤に親和性があることを付け加えた。
次世代産業育成のための「実験の場」としての沖縄
コールセンター、BPOやニアショア、開発や検証の拠点としてこれまでの沖縄のIT産業は成長してきた。しかしそうした従来型IT産業だけでは岐路に立たされるという危機感が、ResporTechの背景にある。
コールセンターやデータセンターが今後も重要であることに変わりはないが、たとえばグローバル化による海外移設、AIやチャットボット、各種の自動化のテクノロジーによってその業態は徐々に進化していく。従来型IT産業の延長にある業態だけでは、次世代型産業を創出することができない。
観光とITをかけ合わせるという戦略によって、宿泊、購買、移動、アクティビティなど一連の観光行動を支援する新サービスを生み出し、マーケティング、同時翻訳、キャッシュレス、ストレスフリーな移動支援、省力化ロボット、海洋ドローンなど多岐にわたるテクノロジーを育成していくというのが、長期的な狙いだという。
「エストニアのブロックチェーン、香港のFinTechのようなテーマと地域の結びつきが重要。イベント単体ではなく、様々な実証実験や協働プロジェクトなどの連続として位置づけていくことで、ResorTechを世界的なテックブランドとして育てていく」と事務局長を務めた沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)の専務理事 永井義人氏は語った。