産業のサービス経済化がすすんでいる
DXや生産性の変革を検討するにあたって、知っておいていただきたいことがあります。それはこれらの活動をサービスビジネスの変革の観点からみる必要があるということです。なぜ、そうなのか。そのことを考えるために、今回は産業のサービス経済化とはなにかについてから始めたいと思います。
第1回でも触れたように、日本でも産業のサービス経済化がすすんでいます。サービス経済化とは、もともとは、卸・小売業や金融・保険業といった伝統的なサービス産業が、生産額のシェアを高め就業者を拡大する一方で、教育、医療や情報などの分野で、新しいサービス産業が誕生していくことを指す言葉です。製造業のGDPに占めるシェアは、2014年には19%まで低下していますが、サービス産業は73%までを占めるにいたっています。
GDPシェアが低下したといえども、日本における製造業の存在感はとても大きいものです。その製造業のサービス経済化も進んでいます。製造業のサービス経済化は、デザインやアフターサービスといった上流と下流工程を重視するかたちで進んでいます。また、製造工程をアウトソーシングしたり、ファブレスと呼ばれる製造機能をはじめから持たず、デザイン機能に特化した企業が登場してきています。これらの動きも、産業のサービス経済化を助長しています。
DXが産業のサービス経済化を加速させている
さらに産業のサービス経済化を強力に後押ししているのが、本連載のテーマであるDXです。DXによるサービス経済化の動きはいたるところで起きています。なかでも産業構造の歴史的転換点にある自動車産業は、DXのみならずサービス経済化の観点からも注目すべき産業のひとつです。
社会学者エズラ・ヴォーゲルは、1979年に出した『ジャパン・アズ・ナンバーワン 』で、世界の頂点にのぼりつめた日本のグローバル製造業を称賛しました。この本では、高度成長期のまっただ中にあった当時の日本の自動車産業や電子産業が、相互に壮絶な生産性向上競争を繰り広げ、生産性のパワーで世界の頂点に立ったことが紹介されました。この工業化社会の時代の経済の主役は、工場で組み立てられる製品であり、倉庫にずらりと並び出荷を待つ製品だったのです。
しかし自動車産業の構造はDXによって大きく変わりつつあります。そのことを象徴する言葉のひとつがCASE(Connected、Autonomous、Shared、Electricity)です。CASEとは、以下の4つのことをあらわしています。
- Connected:IoTによってデジタル直結(=コネクト)されている
- Autonomous:自律化されている
- Shared:シェアされている
- Electricity:電動化(=ロボティクス化)されている
もうひとつが、MaaS(Mobility as a Service)です。最近は日本でもウーバーテクノロジーズのように、スマホからタクシーを呼び出すサービスが徐々に利用できるようになってきました。このような動きは、カタチのあるモノとしての自動車のスペックやコスト・パフォーマンスに欲求を感じていた時代から、スマホのアプリ呼び出しによって、必要な時に必要な分だけ移動サービスを利用したいという利便性に、顧客の欲求が向けられつつあることを意味しています。
この連載では、サービス(=コト)や製品(=モノ)に向けられる顧客の需要や欲求、ニーズのことを「デマンド」と呼びます。また顧客がコトやモノ、またはその提供者と接するときに経験する便益や効用、重要性などの価値のことを「バリュー」と呼びます。顧客のデマンドはいまや「移動サービス」というコトを利用することにあって、自動車というモノはその手段にすぎないというわけです。MaaSが、このような変化の動向を象徴する言葉であるとしたら、CASEはその動向を支えるテクノロジーであると筆者は理解しています。