先駆的なデジタルの実験と可能性

タン氏の講演の後で、玉城沖縄県知事との意見交換が行われた。玉城知事は、沖縄と台湾が地理的にも近く、留学生や農業分野などの様々な交流活動をおこなっていること、また今回のイベント「リゾテック沖縄」の事務局でもあるISCO(沖縄ITイノベーション戦略センター)が台湾のスタートアップ機関との間に8つのMOUを締結していることを紹介した。
タン氏は、特別講演で述べたように5年前、沖縄に訪問した時の、台風での隔離の経験が今回のパンデミックで活かされていることや沖縄のスタートアップ施設「ラグーン」のメンバーとも交流し、今回のマスクマップでの協力も得たことを語った。また改めて沖縄での印象について語ってほしいとの玉城知事の質問にこう応えた。
「これまで私が経験してきたシリコンバレーやアップルのテクノロジーは創造的な破壊で、社会課題を解決し価値をもたらすものでした。しかしテクノロジーは時には環境の代償を伴います。私が沖縄で出会ったのは、環境と調和して社会を改善していく持続可能性のあるテクノロジーの数々です。台湾では台北以外の地域や多くの離島の生活環境からも、イノベーションが生まれています。自動運転の船舶やドローンによる薬の輸送などの実験がおこなわれています。こうした取り組みは沖縄での実証実験などとも協調していけるものです」
台湾と沖縄は、ともに多くの離島を持ち、多様な人々がいるという共通点がある。玉城知事もまた「離島」の可能性についてこう応える。
「沖縄でも一見デジタル化から遅れている離島のような地域こそ、先駆的な取り組みをしていくことができると思います。まだ基盤整備が必要なところは多いのですが、沖縄本島以外の地域のコミュニティの人たちが求めるものを探っていけば、デジタルでの先端的な取り組みが生まれると思います」と語り、知事の「誰一人も取り残さない」という考え方を述べた。
成功の鍵は信頼
タン氏が再三強調した「信頼」いう考え方について、玉城知事は共感をもって応えた。
「政策において最も大切なことは信頼だと思います。トップダウンがうまくいく場合もあるかもしれませんが、やはり困っている人同士が助け合うということが一番必要なことだと思います。その点で、沖縄には『ゆいまーる』――相互に助け合うという素地が昔からあります。このゆいまーるを原点にして、皆さんと気持ちを合わせて積み上げていきたいと思います」
そのためにデジタルを沖縄ではどのように活用いていくのか。玉城知事は、ひとつの取り組みとして、LINEをベースにしたアプリケーションの「RICCA(リッカ)」を紹介した。 沖縄県が感染拡大防止と社会経済活動の両立をサポートするためにリリースしたLINE公式アカウントである。
「RICCA(リッカ)」とは「Real-time Interactive CORONA Catch Application(リアルタイム・インタラクティブ・コロナ・キャッチ・アプリケーション)」の略で、「県民や観光客の皆様と県が、双方向にやりとりし、コロナの情報をキャッチするアプリケーション」という意味を込めているという。
そして最後に、玉城知事は今後、沖縄が台湾と沖縄がアジアのデジタルエコノミーのハブを目指して機能していくために、双方がさらに連携していくことをタン氏に要請した。
沖縄と台湾の協調は地域の活性化という意味で方向は同じだ。台湾にも日本の「ソサエティ5.0」と同様の政策があり、それはSDGsを政策の重要な柱としている。SDGsの17個の項目の中で、特に気候変動や海の環境保全、持続可能な社会の実現というテーマは、台湾と沖縄が共通に取り組んでいけるテーマだと語り、透明性と信頼を基底にした共同の取り組みをおこなうということで意見の一致を見て、特別対談を終えた。