「データマネジメント」に不可欠な戦略策定と人的要素の整備
NTTデータの社内ベンチャーとして立ち上がり、独立後20年間にわたってデータマネジメントを専業としてきたリアライズ。自動車メーカーやカタログ通販会社、IT機器メーカーなどと幅広い顧客に対し、データマネジメントの定着化支援から顧客データの整備・管理支援など多岐にわたってサービスを提供してきた。社内で運用できるよう施策設計を行って担当者の教育を行う場合もあれば、アウトソーシングとして運用代行を引き受けることも多い。既存のデータを分析や活用に”使えるようにデータの品質改善をすること”を提供しているが、その改善したデータ品質を維持運用するためのアセットマネジメントの提供を最大の強みとしている。
顧客の多くは「データの活用」を求めてくるが、その入り口として必須なのが顧客データや商品データの整備を行い、データ品質を高める「データマネジメント」だ。これによりデータを正しく効果的に利活用するためのベースを作ることができる。また、そのデータ品質を維持するアセットマネジメントを行うことで、データの資産価値を向上させることができる。これらを機能的に実施するために顧客内のチーム編成を支援することもあるという。櫻井氏は「データの品質を上げるというのは、すべてのデータを担保するということではない。分析に必要な最低限のデータを使えるようにすることが成功のポイント」と説明する。
そうしたデータ活用の課題を解決するためには、社内に対する「マインド教育」や「役割や体制」づくり、データカタログや監視ルールなどを策定する「ルール・プロセス」、それに基づく「ツール」の選定など、人的要素を鑑みながら、「データ統合計画」としてデータ戦略を策定することが重要だ。櫻井氏は「戦略こそが最も重要で、顧客企業にも一番初めに『何がしたいのか』『何が見たいのか』『どんなものに効果があるのか』を明らかにしていただくことをお願いしている。もちろんモデリングなど部分的な支援も行うが、戦略ありきでなければ正しくデータを活用する仕組みを構築するのは難しい」と語った。
日本企業のDXで期待されるハードとソフトの融合価値
ここで改めて、櫻井氏はデータの活用が求められている背景を、「企業が直面しているこれからの課題」として、人口減少にともない労働力人口が減少傾向にあるのにも関わらず、設備・機器がどんどん複雑になっていることを挙げた。スペシャリストとしての人材確保がますます難しくなる中で、企業には品質・コスト・納期に加えて、生産性や安全性、モラル、環境配慮まで向上させることが求められており、大変悩ましい問題となりつつある。特に日本は欧米に比べても生産性の低さが問題視されており、その向上が企業にも求められるのは必然ともいえるだろう。
日本企業の生産性向上のために不可欠として近年声高に推進が叫ばれているのが、デジタル改革、すなわちDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらすものであり、その恩恵は多くの人が実感できるものとなりつつある。
櫻井氏がDXの進行中の事例として紹介したのは、電気機器メーカーと認識されてきたソニーだ。グループ内では、エンターテインメントやゲーム、スマートフォンゲームなどのコンテンツを扱い、アイドルグループ「乃木坂46」や「NiziU」、人気スマホゲーム「Fate/Grand Order」やアニメ「鬼滅の刃」、新型ゲーム機「PlayStation 5」など、2020年にヒットしたタイトルが並ぶ。しかし、そんなソニーも2012年から2015年3月期までは営業利益が伸びないという”茨の道”を歩んできた。それが「聖域なき改革を断行していく」として、優良物件の売却やリストラなどを行い、コンテンツメーカーへと大きな変貌を遂げた。電機大手の中でも、売上の半分近くがソフトというのはソニーだけであり、2020年も新型コロナウイルスに他の大手企業が苦しむのを横目に好調な利益推移を見せている。そのカギとなったのが、ソフトの重要性について認識し、ハードとの連動性によって価値を高めたことだ。
経済産業省でもDXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義している。シンプルに言えば、データやデジタル技術の活用を軸に、ビジネスに関わるすべての事象に変革を起こすことだ。
とはいえ、企業の変革は一朝一夕にできるものではない。とりわけ新たな製品やサービス、ビシネスモデルを生み出すことは時間もかかり、そうそう簡単なことではない。しかし、プロセスを再構築して生産性の向上・コスト削減・時間短縮をもたらす、または業務そのものを見直して働き方に変革をもたらすといったことならば、徐々にでも始められるのではないか。櫻井氏の実感としてもそうした取り組みを進めている企業が増えつつあるという。
5G×IoTで実現が期待される、新たな「アセットマネジメント」とは
それでは、DXを生み出すデータやデジタル技術の活用といったとき、どのようなものがあるのか。その1つとして、櫻井氏が注目するのが「IoT(Internet of Things、モノのインターネット)」だ。家電や自動車などモノ自体をインターネットにつなげることで、より便利なサービスを提供しようというものだが、法整備や人材確保が活性化しはじめた2016年頃は、まだリアライズとしては我々のビジネス範疇であるマスタデータ(リソース)がIoTに深く関与するイメージを持てていなかったという。
しかし、4G、5Gと通信技術の高速大容量化が進み、低遅延・多数同時接続が可能になり始めたことで、櫻井氏も「経営資源(アセット)の物理的なマスタデータに、IoTデバイスのログデータをつないでリアルタイムに組み合わせることで、実は気づかなかったことに気づける可能性があるのではないか。マスタデータ(リソース)は、5GやIoTにとって大切な”隣にいる存在”なのではないかと気づいた」と語った。
リソースとリアルタイムのログを組み合わせるという構想の具体例として、櫻井氏は、東京の電車がリアルタイムでどう動いているかが見える「Mini Tokyo 3D」を紹介。そして、「これがもっと進化すれば、車や建物、人などの状態がリアルタイムでわかりやすく把握することができるだろう。そうなれば、スマートシティなど様々な構想やサービスを10年以内に実現することも不可能ではないかもしれない」と語り、「VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)、3Dホログラムなどと組み合わせ、『どこに何が設置され、どういう状態なのか』が判れば、災害や事故の検知や影響予測も容易になり、サービスレベルを最大化し、コストを最小化するアセットマネージメントが実現する可能性もあるのではないか」と予測した。
そうしたリソースマネジメントを実現するのは、様々なデータの統合が必要となる。たとえば、ある場所に建物があり、その内部に設置物があり、部品があるとする。これを緯度経度や高さなどから特定し、センサーを取り付けることができれば、データをとることができる。
櫻井氏は「データを物理的に統合するか、仮想的かはともかく、そういう時代がもうそこまで来ている。これをやっておけば、バーチャル空間にリアルなリソースを統合でき、いろんなことができるようになってくる」と期待を寄せた。将来的には地図データの価格が下がるなど、実現に向けた環境的な壁は低くなると思われるが、それ以上に課題なのはマスタデータ側の問題だ。複数部門にまたがって同一のものが異なる表現になっていたり、部門部署によってシステムが異なることでデータの形式が違っていたり、構成部品がブラックボックスだったりすることで、取得するデータが使えない可能性もある。
櫻井氏は「どんなに5GやVRなど環境が整い、優れた分析環境が整っても、リソースの統合ができていなければデータの活用はできない。それを理解した上で、1つずつ解消していくことが大切」と強調した。
リソース統合の手法を表した「データマネジメント知識体系ガイド」を紹介
現在、そして未来のDXに不可欠なリソース統合の考え方として、櫻井氏はフレームワークとベストプラクティスの重要性を強調し、参照データとマスタデータのコンテキスト図を紹介。各領域でどのように施策を推進していくべきかが表されており、データマネジメント知識体系ガイド(DMBOK)にも準拠している。その中でリアライズは「データソースの評価と査定」「データモデルの作成」「スチュワード制と保守プロセスの定義」「ガバナンスポリシーの確立」を得意とするという。
最後に櫻井氏は、データ活用を推進するDMP(Data Management Platform)の構築イメージの図を提示し、「データ活用に必要なプラットフォームは、単にデータ基盤だけではなく、データマネジメントの要素を入れてルールの整備を行っていくことが大切」と語り、NTTデータ及びNTTデータビジネスシステムズとの連携で提供している「TDF(Trusted Data Foundation)」について紹介。
「ぜひともDXにデータマネジメントを取り入れて、これからのビジネスに勝利していただきたい」とメッセージを送り、セッションを終えた。
データ視点アプローチで構築するDMP(Data Management Platform)
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