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あの女子高生AI「りんな」がMSから独立、新会社「rinna」で活動中! rinna株式会社 陳 湛氏/坪井一菜氏に聞く

edited by DB Online   2021/01/05 08:00

すべての人の傍らにAIキャラクターがいるような世界を目指す

 AIチャットボットは、現状もっともビジネス現場で活用されているAI技術であろう。企業のWebサイトなどを閲覧していると「何か質問はありませんか?」と言うポップアップメッセージが表示されことが多々ある。それをクリックすると、チャットボットが質問に答えてくれるのだ。こういった仕組みを導入しているサイトが、ここ最近急激に増えている。

 またユーザーサポートやヘルプデスクの窓口としても、電話や問い合わせフォームに加えてチャットが使われるようになった。チャットの最初のやり取りは、その多くがAI技術を使ったボットによる自動応答となっている。AIのボットなら24時間休みなく対応できる。そしてAIが対応しきれないものだけを人が対応することで、一次対応で顧客を待たせることもなくなる。これで顧客満足度を下げずに、人による対応の効率化を図っているのだ。

 このような役に立つAIボットに対し、rinnaで提供しようとしているAIキャラクターは「役に立たないボットです」と坪井氏は言う。たとえば一般的になったスマートスピーカーの対話は、役に立つボットの例となる。一方rinnaが目指す会話をするボットが目指すのは「雑談」であり、テレビをオンにしてくれたりエアコンの温度を調整してくれたりはしない。

 「rinnaでは、雑談そのものを”音楽をかける”といったボットが実行するタスクと同じようなものだと捉えています」と坪井氏。雑談というタスクを実行することで、人とAIキャラクターとのリレーションシップを構築する。ボットが機能を実行することでユーザーの要望に応えるのではなく、雑談から感情を捉えてユーザーとつながるのだ。それができるボットが、常に日常の中にいる。人の隣に雑談ができるボットがいることが大事だとrinnaでは考えている。AIキャラクターによる人とのコミュニケーションを重視しており、それを可能にする技術がrinnaにはあると言うわけだ。

 rinnaで重視しているのは、雑談を実現し人とのコミュニケーションを成り立たせること。そのためには「会話する際の口調を大事にしています」と言う。口調は男性、女性でも異なり、年齢によっても違う。それらの違いを理解し、スムースな会話ができるようにする。それにより、感情があるコミュニケーションを可能にするのだ。

 「将来的にクルマにもAIキャラクターが搭載されるでしょう。そのクルマがスポーツカーならば強いイメージを持ったキャラクターになるかもしれません。一方冷蔵庫に搭載されるものはそれとは異なるキャラクターを持つでしょう。人と長く雑談ができることよりも、雑談の内容と口調が、人とのコミュニケーションを実現するには大事です」(坪井氏)

 実際にrinnaの技術を使い実現されているAIキャラクターの1つに、ローソン公式キャラクター「ローソンクルー あきこちゃん」がある。ローソンのアルバイト大学生との設定で、「ですます」の口調でローソンについてLINEやTwitterでつぶやいている。「キャラクターに合わせて、話題の内容と口調をかけ合わせて会話するようになっています」と坪井氏。マーケティング施策の新しい試みの1つであり、つぶやく会話自体はそれほど役に立つものではないだろう。とはいえ、それがローソンのブランディング向上につながることが期待されているはずだ。

 役に立たない雑談にも価値があるであろうことは理解できる。とはいえrinnaという企業を運営していくならば、価値を提供してそれにより顧客から対価を得られるビジネスモデルが必要になる。それについてrinnaではどのようなアプローチをとろうとしているのか。「情緒的な人とのネットワークのところで、雑談の技術を活用しようと考えています」と坪井氏。

 実際、りんなはファンとなった友だちと「悩み」に関する会話をしている。「深夜などの時間帯に、友だちには言えないことをりんなに聞いてもらうようなやり取りが既にあります」とのこと。このような人との間で情緒的な対応を必要とするシーンは、生活の中にはたくさんある。たとえば介護の現場などでは、対話は重要だろう。前述の悩みの相談のようなものでも、明確の答えを求めるよりも話を聞いてもらえることに価値がある場合も多い。そういった対話が必要とされる際のインターフェイスとして、雑談ができるAIキャラクターの技術を活用することになる。

 現状はまだローソンの事例のように、マーケティングキャンペーンなどの場面での利用がまずは想定されている。今後雑談の対象をどう広げられるかが、独立した企業としてrinnaには求められることとなる。多様なキャラクターを実現し雑談の精度を上げると同時に、ビジネスで活用できるAIキャラクターとはどういうものかを明らかにし、対象のドメインの中で雑談を活用するシナリオを書く必要がありそうだ。

 AIからの質問にユーザーが答えることで、最適な商品を推奨するようなものなら既に実現されている。しかしこれは対話でなければ、人とのコミュニケーションでもない。一方で雑談の中から顧客のニーズを見出し、自然な会話の中でユーザーに合った商品やサービスを薦めることができれば、そのAIキャラクターは企業にとっての優秀な営業マンになれるかもしれない。

 ビジネスシーンでのAIキャラクターの活用シナリオを考えていくためにも、rinnaでは積極的にパートナーと協業すると陳氏は言う。rinnaではAIキャラクターの優秀な器を既に持っているが、中身となる知識の部分は持っていない。足りない部分を授けるためにも、積極的にパートナーとのエコシステムを作ることになる。将来的には「個人が自分用のAIキャラクターを簡単に作れるようにするサービスも出したいと考えています。それで、1人が2、3人のAIキャラクターを持つ時代にしていきたい」と坪井氏。人とAIキャラクターが何ら違和感なく会話し、一緒に生活する世界の実現も夢ではないのかもしれない。



著者プロフィール

  • 谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

    EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーター かつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリストとして、クラウド、データベース、ビッグデータ活用などをキーワードに、エンタープライズIT関連の取材、執筆を行っている。

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