データサイエンティストとして日本法人立ち上げから参画
――CEO就任前のご経歴から伺います。DataRobotの日本法人への入社前は、どんな形でAIやデータアナリティクスに接していたのでしょうか。DataRobotとの出会いから振り返っていただけますか。
白ヤギコーポレーションというスタートアップの創業者兼CEOを経て、2015年に日本法人の第1号社員としてDataRobotに入社しました。前職でスタートアップ経営を始めた2013年当時は、ビッグデータに注目が集まっていた頃で、AIの中でも自然言語処理に注力し、情報収集を自動化する仕組みを作っていました。その傍ら、「PyData. Tokyo」というコミュニティを立ち上げ、Pythonを使ってデータの解析やモデリングをやっている人たち同士がコアな情報交換ができる場を運営していたのですが、その当時に話題になっていたのがDataRobotだったのです。米DataRobotの創業は2012年6月ですが、最初の3年間は秘密裏に製品を開発していた関係で、「Kagglerと呼ばれるようなすごいデータサイエンティストたちが集まって何かをやっているらしい」ということが話題でした。とは言え、詳細は全くわからないままで、私が製品の中身を知ったのも2015年に入社する際の面接の最後の方でした。
――DataRobotはステルスモードで開発された製品でしたか。それは初めて知りました。柴田さんの入社当時はデータサイエンティストでしたよね。データサイエンティストとしては、これまでどんな活動に注力してきたのでしょうか。
最初は1人のデータサイエンティストとしてお客様と関わるところから始めました。AIを活用したいという企業は今も当時も多いのですが、データサイエンスを得意としているお客様ばかりではありません。DataRobotの製品でやれることはもちろん、必要であれば、DataRobotのインストールやコーディングをすることを含め、データからビジネス価値を生み出すために必要なあらゆるサポートを提供してきました。
日本のビジネスが大きくなり、データサイエンティストやAIエンジニアの採用を進めるほど、私がやってきた仕事をスケールさせる組織づくりが必要になってきました。優秀な技術者が集まっている会社という市場からの期待にも応えたい。そんな組織を維持することを意識してきました。どうすればデータサイエンスチームがお客様に価値を提供できるかを考え、2年ほど前に製造、流通・小売、金融、ヘルスケアの4つの業種別にチームを再編しました。今のチームは全部で20人ぐらいです。
――CEOに就任したのはどんな事情があったのでしょうか。
日本法人は社員数が50人を超え、会社として新しい成長フェーズに入ろうとしています。私はそれまで技術部門の統括をして来ましたが、データサイエンスチーム、AIサクセスチーム、サポートチーム等各チームにリーダー人材が育ち、私は全社のビジネス戦略やプランニングに積極的に関わるようになりました。前任の原沢が会社を去ることになったタイミングで、グローバルからも私のそれまでのリーダーシップが認められ、今後の事業成長を任されることになったのです。
先進性を示す3つの文脈とAI民主化
――ここ数年、日本企業でもAIの適用が進んできました。日本と海外のAI事情を比較した時、日本が進んでいる分野はありますか。
AI活用の先進事例を知りたいという要望をもらうことがいまだにありますが、私は先進性の文脈は3つあると考えています。まず1つは技術の先端を行っていること。まだ存在していない新しい技術を創り出すことですね。2つ目が既存技術の新しいユースケースを創り出すこと。そして3つ目が既存技術を使っていて、ユースケースも今までにあるものですが、今まで使ったことがない人たちが使うようになることです。
1番の研究開発については米国や中国と比べると進歩はゆっくりですが、2番と3番に関しての日本の取り組みは世界的にも先進的です。企業が技術を取り入れて活用する意欲は高いものですし、実際に活用している企業の業種の幅も広いと思います。ご存知の通り、日本は製造業が強い。特に材料分野では、「マテリアルズインフォマティクス」と言って、新素材を生み出す探索的な活動にAIを使う取り組みが活発化しています。これは人間の代わりに探索をAIの力で高度化しいる良い例と言えるでしょう。もう1つ日本が強い分野に小売・流通業があります。この業界には需要予測におけるAIの活用が広がっています。生産量、出荷量、仕入れ量、販売量など、この業界においては需要予測の精度を上げることで事業を効率化できる幅が大きく、例えば昨年末にはローソン様がDataRobotを活用した中食の需要予測事例を日経新聞に発表していました。
――今の例は3つのうちのどれに当てはまりますか。
両方とも2番の既存技術で新しいユースケースを生み出す例です。需要予測については3番に当てはまる分野ともいえます。小売業の在庫管理から製造業の生産量の決定まで、需要予測には幅広い用途がありますが、テーマとしては比較的難しい。現場叩き上げの人が多い小売業では、AIリテラシーに課題を抱えていることもあります。DataRobotのようなツールを使うことで、需要予測ができる人たちが増えるとすると、AI民主化のフロンティアが拡がったことになります。
――日本よりも海外の方が進んでいると考える人が多いと思いますが、ここ数年でAIの民主化が進んだとわかりました。反対に課題を抱える代表分野としては人材育成が代表的ですが、これも変化しているように思います。
最近も人材については話題に上ります。ただし、以前はデータサイエンティストやAIエンジニアのようなコア人材の育成から、シチズンデータサイエンティストの育成にテーマが変化しています。また、プロジェクトで他部門の連携や進捗管理が必要になったことで、プロジェクトマネージャーがAIプロジェクトの理解を深めることも必要になりました。さらにモデルができてから現場のシステムに実装するにはITエンジニアがAIを理解することも求められています。とりわけDXの文脈で、プロジェクトの当事者だけでなく、会社を変革することに関わるあらゆる人たちのAIリテラシーを高めることが必要という理解が進んでいます。
この現状に対応するべく、DataRobotとしても教育プログラムを充実させることを進めています。リテラシー教育については、一例をあげると、先日お客様であるヤマハ発動機様で400人以上の一般社員(技術者ではない)の方がDataRobotを使うトレーニングを受講した実績があります。これから日常的にAIに接する人たちがどこまでできるかを体験することで技術活用の理解が深まる。そんなプログラムをお客様に提供しています。他にも、グロービスのMBAコースの中でデータサイエンス教育や東京大学の社会人向けのコースでDataRobotを使ってもらっています。