
ビジネスにおいてブロックチェーンを活用する取り組みが活発に行われている一方、ブロックチェーンに対する過度な期待から、導入が難航しているケースも見受けられます。そこで、全3回にわたり「なぜブロックチェーンを導入するのか」という疑問を解消し、「どのブロックチェーンを選ぶべきか」を解説していきます。連載第1回となる今回は、事例を紹介しつつ、ブロックチェーンがもたらす価値について考察します。
エンタープライズにおけるブロックチェーンの活用動向
デジタル化の推進が急務となる昨今、ブロックチェーンを活用したシステムを導入する動きは大きく進んでいます。ブロックチェーンのエンタープライズでの活用が進んでいる主な領域としては、「金融」、「サプライチェーン」、「BtoBプロセス」、「行政」の4つが挙げられます。
金融領域では、銀行間決済、トレードファイナンス、デジタルアイデンティティ、債券、証券・資産管理、保険などの幅広い領域においてブロックチェーンを活用したデジタル化が進んでいます。これらの動きは海外だけでなく、国内においても活発です。

たとえば、BOOSTRY、ケネディクス、三井住友信託銀行はデジタル証券発行に向けて協業し、独自のブロックチェーン基盤「ibet」上で、オフィスビルなど不動産関連資産を裏付けとする「デジタル証券」を発行しており、既に商用化されています。

BtoBプロセスの領域では、調達・契約管理、アイデンティティ、モビリティ、IoT、コンテンツなどにおいて、ブロックチェーンを活用する動きが見られます。

たとえば、契約管理の事例としては、住友商事とbitflyer Blockchainによる不動産賃貸契約プラットフォームが挙げられます。これは、借主向けに物件の申込から賃貸契約、周辺の生活インフラの契約、転居手続き全般までをワンストップで行うことを可能にするサービスであり、ブロックチェーンを使うことで改ざん耐性および複数事業者による参照・書込みを通じた確認作業を不要にします。これも既に商用化されています。
サプライチェーンの領域では、食品・医薬品・部品のトレーサビリティや物流、通信テレコム、貿易などにおいて、ブロックチェーンを活用する動きが見られます。

部品のトレーサビリティの事例としては、CirculorとOracleによる、自動車バッテリーに用いられるコバルトのトレーサビリティが挙げられます。これも既に商用化されており、自動車バッテリーに用いられるコバルトについて、密封袋に取り付けられたQRコードをトラッキングする情報管理システムを構築することで、来歴追跡のプロセス自動化・紙削減を実現し、30%のコスト削減を見込んでいると公表しています。
行政の領域では、デジタルガバメント、投票、Covid-19、司法、運転免許、監査・納税、医療などにおいて、ブロックチェーンを活用する動きが見られます。

たとえば、北京のインターネット裁判所が主導する「バランスチェーン」が挙げられます。これも既に商用利用されており、電子データをブロックチェーン上に記録することで、対応するデータの信頼性・有効性・整合性を保証・検証可能なものとする、「デジタルエビデンス」としての利用が進められています。「バランスチェーン」は、これまでに9領域(著作権やインターネットファイナンス等)における25のアプリケーションノードとの結合を完了しており、2400万ものデータがチェーン上に格納されています。たとえばインターネット金融における債務不履行に起因した紛争を防ぐべく、残高預金証書の電子データをデジタルエビデンスとして活用するなど、裁判手続きを効率化しています。
このように、ブロックチェーンを活用したシステムを導入する動きは進んでおり、商用利用を開始しているプロジェクトも多く見られます。では、このままブロックチェーンを活用したシステムの導入が進んでいくのでしょうか。
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北岡 知晃(キタオカ トモアキ)
LayerXソフトウェアエンジニア。LayerX『エンタープライズ向けブロックチェーン基盤比較レポート[基本編]、[プライバシー編]』共同執筆者。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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