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AIは未来を創るためのツールであり、主導権を持つのはあくまで人間である 経験経済の時代のAIテクノロジー Vol.8

edited by Operation Online   2021/03/03 12:00

 これまでの連載では、多岐にわたる産業で進められているAI活用プロジェクトを紹介し、より確度の高いかたちでAIのビジネス活用を進めるための指針を示してきました。今回の寄稿では、連載の総括として、将来的なAIの成長について考えていきます。

 これまでの連載では、多岐にわたる産業で進められているAI活用プロジェクトを紹介し、より確度の高いかたちでAIのビジネス活用を進めるための指針を示してきました。

 第三次AIブームの真っ只中と考えられている今、ビジネスや生活にAIが深く交わるようになっていることから、過去のAIブームとは違い、ブームが終焉を迎えたとしてもAIが社会から消え去ることはないでしょう。実際、金融業界ではAIを活用したトレード手法が定着していますし、医療業界ではAIを用いてがんや心臓病を迅速かつ正確に診断する実証実験が一定の成果を挙げています。他にも、AIチャットボットによるカスタマーサービスや文章校正、校閲システムなど、当たり前のように活用されているプロダクトも増加の一途をたどっています。

 ですが、人工知能が数十年後の私達の生活や仕事に与える影響について、たしかなことは誰にもわからないのです。これまでのところ、AIにより多くの職業が消えてしまうという悲観的な見方が取り沙汰されていますがAIが普及することでAIに関連する新たな職業が失われる職業以上に生まれる可能性もあります。また、これまでとは全く違う商流が生まれ、上記のような可能性以外の全く予想ができない可能性が生まれることだって大いに有り得るのです。今回の寄稿では、連載の総括として、将来的なAIの成長について考えていきます。

AIによって単純なタスクは減っていく

 ここ数年で、「機械学習」は社会の新しい成長の道筋を明確に示すようになってきました。AIアルゴリズムは膨大なデータセットをもとに学習を重ね、特定のタスクに関するアウトプットの質に関して人のレベルを超える成果を生み出すことは珍しくなくなってきています。特定のタスクの実行に特化したAI、いわゆる「弱いAI」の開発はデータや開発用ライブラリのオープン化によりハードルがどんどん下がってきています。このことから、AIの進歩とともに単純なタスクをこなすための人材ニーズがどんどん減少していくことは避けようのないことだと推察されます。

 しかし、単純なタスクが減るということが必ずしも仕事を奪うことにつながるわけではありません。私の見込みでは、今ある仕事に求められている職能がより高度なものになりつつも、多くの仕事が存続を続けていきます。

 たとえば、調理人であるシェフは、AIによる代替が危惧されている職業の一つです。ファミリーレストランや大手外食チェーン店のように調理工程がマニュアル化されている場合にはAIにとって代わられる可能性の高い職業といえるでしょう。しかし、店舗で出すメニューの作成や複雑な調理工程を必要とする料理はAI導入では全作業を対応することは難しいため、今後も人が担っていくことでしょう。また、AIによる料理が普及していくことで、今度は料理をしている姿そのものを見ることが顧客に価値をもたらす体験となり、スキルの高いシェフの価値は変わらないどころか向上していく可能性すら考えられます。つまり、AIの進歩により、高い職能と競争力を持つ人材がこれまで以上に大きな脚光を浴びるようになるということです。

 車が普及した今でも、東京の街を走る人力車の車夫が観光業で求められ続けるように、職業の規模は縮小しつつも本来とは違うかたちなどで残っていくでしょう。一方、先進国を中心に労働人口の減少が問題となっており、各国ともこの問題の解決にテクノロジーを適用しようと模索しています。AIによって単純・反復作業が削減されれば、人がこれまで対応してきた仕事の絶対量を減らせます。これにより人材の需要と供給のバランスが整い、労働人口の減少という社会問題の解決策の一つになるのではないかと考えます。業務をAIや機械に代替させるという考え方は、技術面だけの問題ではなく、乗り越えなければいけない複数の課題がありますが、AIが我々の社会にもたらす影響は良くも悪くも私達の想像を超えていくでしょう。

SFの世界はありえない話ではない

 今後考えられるもう一つのシナリオは、AI研究の究極の目標である幅広い分野で活躍する「汎用的なAI」が実現される未来です。汎用的なAIの実現はブームが起こるたびに取り沙汰されます。今回のAIブームでの汎用AIの実現に対する期待は過去と比べられないほど大きなものとなっています。30年後には実現されるであろうと、一部の科学者は期待を込めて発言していますが、これは全くありえない話ではありません。汎用AIが実現したとき、つまりシンギュラリティに到達したとき、人々は労働そのものから解き放たれる可能性さえあります。

 その瞬間、世界はこれまでの経済とは全く異なる軸で回っていくことになります。人々がお金を稼ぐための仕事から開放されたとき、おそらく自己実現の度合いにより人の評価が変わることにもなるでしょう。その自己実現は、スポーツで頂点を目指すことかもしれませんし、アートに没入することかもしれません。あるいは新たな何かを生み出すために研究することや自由に旅をする生き方を社会に示すことであってもおかしくありません。

 この未来は今すぐに起こりえるわけではありません。しかし、自分という個を社会にどう示していくかを考えていくのは今からでも早すぎるということはないはずです。イーロン・マスクやビル・ゲイツといった著名人たちが危惧するように、AIがシンギュラリティに到達することにより、人類が滅亡に向かって歩みを始めるという可能性もないわけではありません。

 現在のAIは、プログラムに基づき規定されたデータを学習し、規定されたタスクに対する解を導くことを目的としています。しかし、汎用的なAIが実現したとすると、AIが自らが目的を設定し、新たなプログラムを生成することで人が制御できない進化を遂げることも可能性としては存在しています。もし、このような自体に陥ってしまえば、そのとき世界はSF映画のような様相を呈することでしょう。

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著者プロフィール

  • ミン・スン(ミン・スン)

    Appier Japan株式会社 チーフAIサイエンティスト 2005年からGoogle Brainの共同設立者の一人であるAndrew Ng(アンドリュー・エン)氏、元Google CloudのチーフサイエンティストであるFei-fei Li(フェイフェイ・リー)氏などのプロジェクトに携わり、AAAI(アメリカ人工知能学会)をはじめ世界トップの人工知能学会で研究論文を発表。 2014年に国立清華大学の准教授に就任。2015年から2017年には、CVGIP(Computer Vision Graphics and Image Processing)Best Paper Awardsを3年連続で受賞。 専門分野は、コンピュータビジョン、自然言語処理、深層学習、強化学習。 2018年には「研究者には肩書きよりもデータが必要」と感じ、AIテクノロジー企業AppierにチーフAIサイエンティストとして参画。新製品の開発、既存製品の機能改善のほか、記述的な課題解決を行う。

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連載:経験経済時代のAIテクノロジー ミン・スン

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