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AI活用組織の構築を阻む障壁と他社の成功から学ぶ対応策 経験経済の時代のAIテクノロジー Vol.7

edited by Operation Online   2021/01/27 10:00

 AI技術は、今後10年間で世界経済に13兆ドル以上の貢献をすると予測されているなか、ほとんどの企業が試験的なAI活用や、ほんの一部のビジネスプロセスでAIを活用する段階に留まっています。この現状を変えるためには、旧態依然とした組織体制に変革を起こしていく必要があると考えます。今回は、AI導入をうまく進められる組織を作り上げるために企業がすべきことは何なのかということに焦点を当て、考察を進めていきます。

 2010年代前半に到来した第3次AIブームで特長的なのは、過去のAIブームにはなかった、多くの企業でAIのビジネス活用が進んだことです。一部の業界ではAIを導入することでビジネスのあり方を再構築しています。例えば、AIは製造業における不良品検知や金融業界で注目されているロボアドバイザーなどの意思決定プロセスに深く関わるようになりました。また、AIによってカスタマーサポートの自動化が急速に進んでいます。このように特定の分野でのAIの実装・導入がなされています。しかし、多くの人が想定・期待していたほど劇的なペースでAIによるビジネスの変革が進んでいません。

 一方、開発プラットフォームや計算用のコンピューティングリソース、データストレージなどのAIの周辺技術は急速に進歩しており、企業がAIの活用を始める土壌は整っていることを鑑みると、現在のAI活用のペースは近い将来、もっと早くなる可能性を秘めています。

 AI技術は、今後10年間で世界経済に13兆ドル以上の貢献をすると予測されているなか、ほとんどの企業が試験的なAI活用や、ほんの一部のビジネスプロセスでAIを活用する段階に留まっています。この現状を変えるためには、旧態依然とした組織体制に変革を起こしイノベーションが生まれやすい土壌を整えていく必要があると考えます。

 今回は、AI導入をうまく進められる組織を作り上げるために企業がすべきことは何なのかということに焦点を当て、考察を進めていきます。

AI活用組織の構築を阻む障壁

 AI活用組織の構築にはさまざまな障壁があり、多くの企業がいまだにAIをうまく活用できずにいることが様々な調査からわかっています。

 このような状況は企業ごとに異なるうえ、数多の要因が複雑に絡み合い生まれているため、画一的な解決策を導き出すことは非常に難しいと言わざるを得ません。しかし、AI活用に苦戦している企業の多くに共通する主要な障壁は徐々に明らかになってきています。

早期的な投資効果への過度な期待

 AIプロジェクトを進めるにあたり、即時的な投資効果を判断の基準としている企業が多くあります。これらの企業の多くでは、経営層をはじめとする意思決定者がAIをシステムと同様に一定期間で開発でき、プロジェクトが完了すればすぐにでも業務に変革をもたらすものとして考え、担当者に費用対効果の明確化を求めています。

 そのため、担当者は根拠の薄い架空の投資効果を計算してプロジェクト予算を獲得し、実際に開発に臨むわけですが、計算通りにプロジェクトを進め、初期に設定した効果を得ることは至難の業です。

 クレジットカードの不正利用の検出にAIを用いるケースでは、ロジックに基づく方法である程度精度を担保できるため、半年から1年程度でビジネスの現場に導入できる可能性があります。しかし、AIによるカスタマーサービスの自動化など、人間的な感情を加味しなければならないプロジェクトでは、より長い時間軸で地道な精度向上を続けていく必要があります。多くのプロジェクトは予算の枯渇や、期間内に想定したAIの精度に達成できなかったことなどが理由となり可能性が残されていつつも失敗とみなされてしまう場合があります。また、PoCに成功したAIを全社的に導入しようとしたときにオペレーションの構築などに時間がかかってしまい、うまくプロジェクトが進行しないというケースも多々あります。

 AI導入に取り組む多くの企業に共通するこの障壁を乗り越えることは簡単ではありません。経営者は投資に対する責任を取らなければならないため、大きすぎるリスクを抱えたがらないのは当然のことだからです。実際、AIに対する投資リスクの判断ができず経営状況が悪化した企業もあります。この障壁を取り払うためには、プロジェクトの進行に関する意思決定の基準を明確にすることが必要です。

 初期のAIプロジェクトでは、AI開発には不確定要素が多くプロジェクト存続に関する基準の設定が難しいという問題がありましたが、多くの企業がAI開発に挑んできた今、AI開発ベンダーや各企業内にAI開発に関する知見が蓄積され始めています。

 AIによる不良品検知は多くの企業が実現に向けた取り組みを進めていますが、プロジェクトの成功を収めている企業では、不良品の発生頻度や人による検査の精度、検査にかかるコストなど、事前に持っているデータをもとにプロジェクトの目標を綿密に設定していることが多くなっています。そういった企業では、どのような製品の異常検知にどれくらいの期間とコストがかかるのかといったデータが蓄積され、さらなる成功とプロジェクト規模の拡大の礎となっています。

 これらの知見は開発ベンダーのセミナーやインタビューなどでも盛んに共有されています。そのため、これからAI開発に取り組み始める企業でも、外部ベンダーや専門家への相談をはさむことにより、プロジェクト存続に関する意思決定の基準は設定できるようになってきています。

 AIプロジェクトだけでなく、初めて取り組むプロジェクトの成否を分けるのは質の高い情報をもとにした事前準備です。数多くのAIプロジェクトが社会全体で推進されてきた今、自社や他社の経験から学び、意思決定の判断基準を明確化するができれば高すぎる投資効果への期待を抑制しつつ、着実な成功に繋げられるでしょう。

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著者プロフィール

  • ミン・スン(ミン・スン)

    Appier Japan株式会社 チーフAIサイエンティスト 2005年からGoogle Brainの共同設立者の一人であるAndrew Ng(アンドリュー・エン)氏、元Google CloudのチーフサイエンティストであるFei-fei Li(フェイフェイ・リー)氏などのプロジェクトに携わり、AAAI(アメリカ人工知能学会)をはじめ世界トップの人工知能学会で研究論文を発表。 2014年に国立清華大学の准教授に就任。2015年から2017年には、CVGIP(Computer Vision Graphics and Image Processing)Best Paper Awardsを3年連続で受賞。 専門分野は、コンピュータビジョン、自然言語処理、深層学習、強化学習。 2018年には「研究者には肩書きよりもデータが必要」と感じ、AIテクノロジー企業AppierにチーフAIサイエンティストとして参画。新製品の開発、既存製品の機能改善のほか、記述的な課題解決を行う。

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連載:経験経済時代のAIテクノロジー ミン・スン

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