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エンタープライズIT業界Watch:デジタルビジネスへの戦略シフト

企業はなぜデジタル投資を行うべきか

ITR 金谷 敏尊 連載:第2回

 これからの時代は、デジタル技術やデータを活用した経営が重要として、DXを推進する企業が増加している。一般にDXは、間接業務のデジタル化、すなわちWeb会議やRPAなどによる業務改革を含むことが多いが、これらの技術分野はコロナ禍の影響もあり、すでに活用が進んでいる。一方で、先進テクノロジやデータを活用したビジネス変革、すなわち「デジタルビジネス」については、具体的な投資を行うのは4社に1社と少数派であり、取り組む企業はまだ限られているのが現状だ。

デジタル投資の経営効果

 間接業務のデジタル化は、汎用性の高いソリューションを利用することが多く、市場浸透スピードが比較的速い。キャズムを超えれば一気にコモディティ化へ向かうこともあり、早期導入によって競争優位性を得られても、その有効期間が長く続くとは限らない。他方、デジタルビジネスへの変革は、デジタル技術やデータにより競争優位性を築く行為そのものだ。デジタル技術で刷新される独自性の高い事業運営や新たなビジネスモデルを指し、スマート工場やスマート物流などがそれにあたる。そのようなデジタル技術による「ビジネス変革」プロジェクトへ投資する企業(デジタル投資企業という)は、調査結果によれば、全体の24%であり4社に1社にすぎない。なお、ここで先進的なデジタル技術とは、IoT、AI、XR、5G/LPWA、ブロックチェーン、量子技術、ロボット、ドローン、CPS、ビッグデータを指し、間接業務に関わる技術(Web会議、RPA、MA、クラウドなど)は含まない。デジタルビジネスへ投資する企業は、いまだ少数派であるのが実態といえる。

 デジタル投資の必要性を認識し、経営計画に盛り込む企業も増えつつあるが、当然のことながら、投資すれば確実にその成果を得られるわけではない。そのためデジタル投資効果を懐疑的にみる経営者も少なくない。では、デジタル投資はそもそも有益といえるのだろうか。2020年8月にコロナ禍による事業収益の影響について調査を行い、興味深い結果が得られたためここで紹介しておきたい。調査では、コロナ禍により収益が拡大したか減少したかを尋ねている。調査時点のデータではあるが、デジタル投資の有無によるギャップに留意してみて頂きたい(図1参照)。

 調査によれば、コロナ禍により多くの企業の収益力は減退していることが明らかである。非デジタル投資企業においては、事業収益が拡大したと回答するのは全体の13%にすぎない。しかし、その一方で、デジタル投資企業においては、事業収益が拡大したのは倍以上の30%にも上る。これらの大半は前年度に投資予算を確保している企業である。デジタル投資へ意欲的な企業は、コロナ禍の影響を緩和する傾向があると見て良いだろう。コロナ禍が終息すれば、社会や経済はビフォアコロナの状態に戻るとの見方もあるが、現状ではコロナ禍によりそれまでの価値観がリセットされた社会においては新たな常態である「ニューノーマル」へ移行するとの世論が強い。また、前回紹介したように、コロナ禍においても投資対象のプロジェクトへの期待は拡大する傾向にある。アフターコロナにおいてもデジタル投資は、多くの企業で重視すべき経営戦略になると見られる。

図1 コロナ禍におけるデジタル投資企業の収益力[クリックして拡大]

 デジタル投資は、投機的であり、他の投資案件に比べて確実性が低いと見る向きもあり、それらはおおむね正論といって良い。しかし、デジタルに無関心でオールドノーマルのままでは、技術進展の早い今日においては、デジタルシフトする競合企業やデジタルネイティブなテックベンチャーに打ち勝てなくなるばかりか、やがては追いつくのも困難になっていくだろう。IT業界のGAFAや自動車業界のTeslaのような企業が、自社業界において台頭しないとは限らない。市場が未成熟で競争が緩やかなうちに、取り組みを進めておくのが賢明ではないだろうか。

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成長期の市場への投資とマネジメント

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この記事の著者

金谷 敏尊(カナヤ トシタカ)

株式会社アイ・ティ・アール 取締役/リサーチ統括ディレクター/プリンシパル・アナリスト、英国MBA(経営学修士)、IoTエキスパート(MCPC認定)、BATIC Accountant(国際会計検定)、ITIL Foundation(EXIN)青山学院大学卒業。英国Anglia Ruskin University M...

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