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GSユアサは自動車用バッテリー販売予測にAI活用し精度向上 アフターマーケット販売予測にDataRobotを導入

edited by Operation Online   2021/04/07 08:00

 AIというと自動翻訳や自動運転、あるいはゲームの対戦相手など、これまでにない新しいものをイメージしてしまいがちだ。しかし、そうとは限らない。昔からある業務に導入して成果を出すこともできる。GSユアサはバッテリーの販売予測をAI活用で精度を高めることに成功した。

バッテリーのアフターマーケットは予測困難

 株式会社 GSユアサ(以下、GSユアサ)は2017年に設立100周年を迎える歴史のある会社だ。大正の1917年に日本電池株式会社が設立、翌1918年に湯淺蓄電池製造株式会社が設立、平成の2004年に両社が経営統合して現在に至る。両社とも設立当初から自動車用の鉛蓄電池の生産をしており、世界市場で見ると自動車向けは世界2位、オートバイ用は世界1位のシェアを持つ。これまで培った技術と経験を活かし、EV用のリチウムイオン電池にも早くから進出し、2009年には量産を開始した。企業理念に「革新と成長」を掲げ、技術革新で成長を遂げ、社会課題解決や地球環境保全に貢献することを目指している。

株式会社 GSユアサ グローバル技術統括センター 技術開発本部 第二開発部 第二グループ 濵野 泰如(左)<br>自動車電池事業部 SCM推進部 企画グループ 森岡 稔(右)
株式会社 GSユアサ グローバル技術統括センター 技術開発本部 第二開発部 第二グループ 濵野 泰如(左)
自動車電池事業部 SCM推進部 企画グループ 森岡 稔(右)

 GSユアサのコア業務となるのが電池や電気機器の製造販売。自動車向けのバッテリーで見ると、新車に搭載するOEMマーケットと、修理で交換するアフターマーケットがある。前者は新車の製造計画に合わせていけばいいが、後者は交換なので需要予測が難しい。過去の販売実績に加え、季節要因や経験則など様々な情報を総合して人間が予測を立てていた。

 同社 自動車電池事業部 SCM推進部 企画グループ 森岡稔氏は営業として販売見込みの作成をしていたうちの1人。森岡氏は「JAF出動理由の約4割はバッテリートラブルです。季節で見ると、冬は需要が高くなる傾向があります。もし足りないとお客様を待たせてしまいます。製品を切らすことなくお届けできるように、配給責任は大きいと感じています」と話す。

 不足がないようにしたいものの、在庫がかさばるのも困る。OEMマーケットに比べたらアフターマーケットは中間流通が複雑で、小売形態も多様。国内にある4つの物流拠点にどの型式の製品をどれだけ備蓄すればいいか。情報が複雑に絡み合い、販売予測の精度を高めることは長年の難しい課題となっていた。

精度向上の障壁
精度向上の障壁

 冒頭に挙げたように、GSユアサは新技術開発で革新を進めていくことにとても熱心な企業だ。社長方針で「最先端IT技術で各種事業課題を解決する」と方向性が定められ、ここにぴたりとあてはまったのがバッテリーの販売予測に関する課題だった。

 当時AI活用が注目されはじめていたこともあり、AIを活用してこの課題に取り組むようにと同社 グローバル技術統括センター 技術開発本部 第二開発部 第二グループ 濵野泰如氏のもとにミッションが下りてきた。濱野氏は「社長方針とニーズが合致しました」と言う。後から業務経験を活かして森岡氏も加わった。

 2018年9月から販売予測AIプロジェクトが始動し、まずは情報収集から始めた。同社にはデータ分析の専門部署はなく、濱野氏も森岡氏もデータサイエンティストではない。二人ともAI活用は未経験だ。濱野氏は「素人でしたので、最初はどこからスタートすればいいか心配なところもありました」と正直に吐露する。イベントや人脈を通じた情報収集を進めていくなかで、DataRobotが選択肢に上がった。「データサイエンティスト並の特別なスキルがなくても、高いスピードでAI活用できそうだと感触がつかめてきました」と濱野氏。

データや処理を「自社の管理下」に置くことの重要性

 プロジェクトを進めていくにあたり、濱野氏は内製できることにこだわった。一般的にITシステムはSIerに外注することが多い。販売予測AIをどこかの企業に完全に委託することは避けたかった。例えばGSユアサが必要なデータを委託側に渡し、処理結果のアウトプットを受け取るような形では、結果の妥当性を社内で検証するのが難しくなる。濱野氏は「バッテリーの販売予測は事業のコアな部分です。完全にAIを担当する企業に(データや処理を)手放すことは非現実的」と話す。データや処理過程も管理下におけるようにしたかった。

 またAI活用では試行錯誤が伴う。インプットに使うデータ項目をどうするか、取捨選択する必要がある。精度を高めたら終わりとは限らず、トレンドや環境変化に応じて継続的な改善を繰り返していく必要もある。こうした業務特性や改善の必要性などにより、販売予測AIは自社の管理下におき、自社内で改修を加えられるようにしたかった。濱野氏は「DataRobotなら大部分を管理下におけて、要所要所でコントロールできることが採用の大きな理由になりました」と説明する。

 2018年のプロジェクト開始から企画構想やPoC準備を進め、2019年6月からPoCを開始した。PoC期間は代理店NSSOLの講習を通じたスキルアップや、時間の粒度と予測対象の粒度からRoIを見定めていった。

 続いて2019年下半期から半年間かけてパイロット運用へと進んだ。この時期は実際の生産計画に使えるように品目数をそろえてスケールアップを進めた。過去データではなく現状のデータからタイムリーに予測した結果で検証を重ね、徐々に自信や説得力を積み重ねた時期でもあった。最終段階ではAIで出力した予測値を実際の業務で使うための準備も整えた。最終的には予定通り2020年4月から本番運用へとこぎ着けた。

 実際の販売予測AIでは、DataRobotを用いて品目ごとにモデルを作成し、作成したモデルから予測値をはじき出すようにしている。DataRobotのGUIでは複数のモデルを一度に操作できないため、多数の品目を取り扱えるようにPython Clientを使用した。モデル作成時にはDataRobotのオートパイロットで作成したモデルを採用している。濱野氏によると時系列予測の精度向上に有効だったのは「特徴量の取捨選択」だったという。ドメイン知識に基づき、品目ごとに特徴量(変数または属性)を設定して精度を高めた。


著者プロフィール

  • 加山 恵美(カヤマ エミ)

    EnterpriseZine/Security Online キュレーター フリーランスライター。茨城大学理学部卒。金融機関のシステム子会社でシステムエンジニアを経験した後にIT系のライターとして独立。エンジニア視点で記事を提供していきたい。EnterpriseZine/DB Online の取材・記事も担当しています。 Webサイト:http://emiekayama.net

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