DXは新成長戦略のキードライバー
医薬品開発のビジネスは、莫大な研究開発投資と10年以上の開発期間を要することで知られている。加えて、その成功確率は0.004%とも言われている。海外のメガファーマでさえ、近年はR&Dの生産性が年々低下する傾向にあった。
この厳しい環境で、革新的な医薬品をできるだけ早く市場に投入するには、デジタル技術、中でもAIならびに医療ビッグデータ(リアルワールドデータ)の活用が不可欠である。製薬会社が新薬の市場提供のスピードアップに成功すれば、医療関係者は患者に最先端の治療を提供できる。患者も新しい医療を享受することが可能になり、引いては健康寿命の延伸とQOL向上が実現する。政府や自治体にとっては、めぐりめぐって保健医療費の抑制にもつながり、「四方良し」を達成することが期待される。
そのためにもデジタルの力が必要だ。新成長戦略「TOP I 2030」では、大きな目標として「R&Dアウトプットの倍増」「自社のグローバル品 毎年上市」の2つを掲げている。加えて、それぞれの実現に向けては、「世界最高水準の創薬技術の実現」「先進的事業モデルの構築」の達成が必要と定義し、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」をキードライバーの1つと位置付けている。
2020年に発表した「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」でも、「デジタル技術によって中外製薬のビジネスを革新し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーターを目指す」という目標を掲げている。そして「デジタルを活用した革新的な新薬創出」「すべてのバリューチェーン効率化」「デジタル基盤の強化」の3つの基本戦略を柱に据え、「革新的新薬を核に、真の個別化医療、QOLの向上、そしてサスティナブルな社会保障制度を実現する」というビジョンを描く。
このビジョンと戦略も含めて「DX推進に必要な要素は4つあると考えています」と志済氏は説明する。その4つとは、既に説明した「明確なビジョンと戦略」に加えて、「トップのリーダーシップ」「人財強化・組織風土改革」「推進体制の確立」だという。