はじめに
例えば、仕事を改善しようと思い、たまたま最適な改善策が見つかったとします。しかし、誰も知らないマイナーな手法であった場合、導入される可能性は低いのではないでしょうか。逆に、誰もが知っているメジャーな手法であれば、導入される可能性は高いのではないでしょうか。
改善策に限った話ではありませんが、マイナーな手法は(それがどんなに安全かつ最適な手法でも)会社側から見るとリスクが高いため、どうしても導入の合意が得にくくなってしまいます。様々な方法があると思いますが、合意を得やすくするための方法の1つに、「知名度をアップしてメジャーな手法へ変化させる」ことが考えられます。つまり、ある個人が導入したいと考える手法をメジャーな手法に変えることができれば、会社側の合意を得やすくすることが可能となるのです。これが実現できれば個人の意見で社会を変える「社会規模の独善」が実現されることになります。しかし、マイナーな手法がメジャーな手法へ変化するためには、導入事例を増やすなどして社会規模での変化をもたらす必要があり、実現は困難です。
「独善のススメ」最終回となる本稿では、「社会を独善する」と題し、実現困難な「社会規模の独善」を実現するための取り組みについてご紹介します。
進まない水平展開
自分のチームの生産性と品質の向上を目指し、開発プロセスの改善とブラッシュアップを続け行く中で、eXtreamProgramming(以下XP)という開発手法に出会い、すっかり虜になってしまいました。
XPとは、アジャイル開発プロセスの1つで、設計/開発/テストを細かく分割した極小のウォーターフォールを何度も繰り返し行い、ソフトウェアを段階的に成長させて行く手法(=イテレーション開発)です。イテレーション開発以外にも、それまで知らなかった斬新な手法(ペアプログラミング、テスト駆動型開発、リファクタリングなど)が多数紹介されており、品質/開発効率の両面で大きなメリットを感じました。
その魅力を知るにつれ、「なぜこの手法が世間に受け入れられないのか?」と疑問に感じ、水平展開するべく社内で普及活動に取り組みました。しかし、「変化の拒絶反応」により、水平展開は一向に進みませんでした。
協力者、現れず…
水平展開が一向に進まず、困って上司に相談した所、次のようなアドバイスをいただきました。
「君のプロジェクトで成功したとしても、他のプロジェクトで成功するかどうか分からないし、社会全体の適用事例が少ないということは、無理して導入しても失敗する確立が高いのではないか」
ご指摘の通り、XPなどのアジャイル開発手法の適用事例は非常に少なく、全体の5.6%※1といった状況でした。この状況では会社側にいくら導入を訴えても合意されるはずはありません。この状況を改善し、いつかXPがウォーターフォールと肩を並べるくらいメジャーな手法になれば・・・と、考えていました。
「XPをメジャーにするには、もっと多くの人にXPの良さを分かってもらう必要がある」と、漠然と考えてはいましたが、具体的な方法は思いつかず、相談相手や協力者も現れず、結局独りで解決策を模索する日々が続きました。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/OPINION/20030701/1/