コスト削減の鍵を握る「フルスタック・オブザーバビリティ(FSO)」とは?
クラウドは今やエンタープライズITの様々な領域で当たり前のように使われるようになった。一方で、その運用コストの高騰に悩む企業も増えてきている。その背景について、本イベントに登壇したシスコシステムズ テクニカルソリューションズアーキテクト 吉原大補氏は次のように述べる。
「今日のアプリケーションは、既存のクラウドサービスをつなぎ合わせることで容易に開発できるようになった反面、システムの要素が分散化し、全体の構成が複雑化したことで問題が発生した際の調査はもとより、現在の状況を正確に把握することすら困難になっています」
こうした状況を改善するための手段として、シスコシステムズでは「フルスタック・オブザーバビリティ(FSO)」と呼ばれる方法論を提唱している。ここで言う「オブザーバビリティ(可観測性)」とは、複雑な構成のアプリケーションやインフラの状況を正確に可視化し、問題が発生した際に速やかに原因を特定して対応策を導き出す取り組み全般のことを指す。具体的には、アプリケーションを構成する様々なコンポーネントからそれぞれのログデータや統計データ、イベント情報などを取得して1ヵ所に集約し、AI分析を施すことで高度な可視化や問題切り分け、将来予測などを可能にする。
シスコシステムズが提唱するFSOは、こうした取り組みをアプリケーション、インフラ、ネットワークのすべてのスタックにわたって実施し、それぞれから取得したデータを互いにシームレスに連携することで高度な可視化や分析を可能にするという。具体的には、インフラの可視化・分析やアプリケーションリソースの管理を担う「Intersight Workload Optimizer(IWO)」、アプリケーション性能管理(APM)の機能を担う「AppDynamics」、そしてネットワーク性能管理(NPM)を担う「ThousandEyes」の3製品がそれぞれ連携することでFSOを実現する。
FSOを実現する「Intersight Workload Optimizer(IWO)」
これら3製品のうちIWOは、アプリケーションの観点から各種リソースのオブザーバビリティを実現する製品。仮想マシンやストレージ、ネットワーク、さらにはCPUやメモリまで、アプリケーションを構成するあらゆるコンポーネントのリソース使用状況を「正常」「通知」「推奨」「危険」の4段階で可視化するとともに、それぞれをコストの観点から最適化するためにとるべき具体的なアクションも提示してくれる。
なおIWOでは、各リソースの利用状況を評価するに当たり、「モノの売買や流通」に似た独自のアルゴリズムを導入している。
「IWOは、データセンターを構成するリソースに『モノの価格』に相当するスコアを付けています。アプリケーションを構成するそれぞれのサービスやワークロードがリソースを利用する際は、サービスレベルを維持できる範囲でなるべく価格が安いリソースを利用するよう判断し、もし現実のシステム構成がこれと乖離している場合はユーザーに改善策のアクションを提示します」(吉原氏)
IWOと同様なツールも複数存在するが、一般的な製品と比較してIWOは次のような点で優れている。たとえば、10台のオンプレミスサーバー上でリソースが稼働する環境において、一般的なツールでは10台を前提条件として最適化を行うが、IWOは8台などのできるだけ少ないサーバー台数での稼働を目指して最適化を行う。
IWOのアプローチでは、まずアプリケーションの性能を保証する。その上でインフラの利用効率を高めて、システム全体のROI(投資対効果)を向上させることも目指す。つまり、性能保証の実現と同時に、「できるだけ少ないリソースでアプリケーションを動作できるよう」ユーザーに改善を促すのだ。
一般的なツールでは最終的な判断を人が行わなければならないが、IWOは性能保証をするので最適化判断をそのまま信じることができる。これによってリソースに対する過剰投資を抑止し、高いROIの達成を目指す。
IWOを使ったクラウドコスト削減の方法
このように財務の視点を取り入れながらクラウド運用を管理する手法を「FinOps」と呼び、近年クラウドコストに悩む企業の間で注目を集めている。クラウドはオンプレミスと比べシステム構成が複雑になりがちで、またクラウド運用の最適化に長けた技術者の数も極めて少ないため、どうしてもその利用コストが高騰しがちだ。加えて、多くのインフラエンジニアは、長年にわたるオンプレミス環境運用の中で培ってきた「念のためのオーバーサイジング」の習慣がなかなか抜けず、クラウドに移行した後も過剰なインフラ投資を行う傾向にある。
しかし、オンプレミスにはないクラウドならではの柔軟な運用性を生かすことができれば、かなりのコスト削減が見込める。具体的には、利用が終わったにも関わらず削除されずに残っているリソースを削除または一時停止し、過剰なリソースを割り当てている仮想マシンやコンテナのリソースを縮小するだけでもかなりの効果が期待できる。また、リソースの長期契約で大幅なディスカウントを受けられる「リザーブドインスタンス」をうまく活用することでも、大幅なコスト削減が可能だ。
「IWOではこうした様々な観点から、現在のクラウドリソースの利用状況をスコアリングし、さらに効率的な利用方法をユーザーに提案してくれます。それにより、たとえばクラウドリソースの削除で5~10%、リサイズで20~30%、一時停止で20~40%、リザーブドインスタンス活用によって20~40%のクラウドコスト削減が可能になると言われています」(吉原氏)
さらには、既存のオンプレミスのシステムをそのままの構成でAWSやAzureのクラウド環境に移行した場合のコストシミュレーションと、IWOが提示する最適化案に基づいて移行した場合に掛かるコストを比較し、削減効果があがるのか算出する機能も備わっている。
CTCの検証施設「TSC」でIWOを実際に触ることも
本イベントでは、吉原氏によるIWOのデモも披露された。IWOの画面では、アプリケーションを構成する個々のリソースが円型のアイコンで示され、その中に記された数字でリソース数が、そして数字を囲う4色の円グラフで正常・通知・推奨・危険それぞれのステータスを一目で把握できるようになっている。
それぞれのアイコンをクリックすれば、詳細な内訳情報が表示される。たとえば、仮想マシンのアイコンをクリックすれば、そのアプリケーションに含まれているすべての仮想マシンの稼働状況やリソース使用状況が細かく表示されるとともに、IWOが目指す理想状態と乖離がある場合は是正のための具体的なアクションが提示される。仮想マシンのインスタンスがオーバースペックだと判断された場合には、「現在の○○プランから△△プランへの変更をお勧めします」と具体的なアクションが提示される。
さらには、これらのアクションを実行した際に掛かる追加費用と削減費用の双方を金額ベースで確認できるようにもなっている。当然、各費用を相殺すると最終結果としてコスト削減効果が得られる。これらの機能を活用することによって、アプリケーションの性能を維持しつつ、効果的にクラウドコストを節約してビジネス価値を高めることが可能という。
なお、CTCが運営する検証施設「TSC(テクニカルソリューションセンター)」では、IWOのこうした機能を実際に触って検証することができる。TSCは、2005年3月に開設してから年間約1,000件の検証作業を行っており、さらに2020年にTSC内に開設した「DX_LAB」ではAIやマルチコンテナといった先進技術を使った検証環境も提供している。
IWOをはじめとするシスコシステムズのクラウドサービス「Cisco Intersight」シリーズについても、様々なベンダーのハードウェア製品を使ったオンプレミス環境と、AWSやAzure、GCPなどのパブリッククラウド環境を組み合わせたハイブリッドクラウド環境での検証が可能になっている。その利用価値について、CTC エントラステッドクラウド技術事業部 TSC部 谷本友和氏は次のように述べる。
「マルチベンダーの製品を自由に組み合わせて検証できる稀有な環境であると同時に、ネットワーク環境についても専用線からインターネット接続まで幅広くご利用いただけます。今回IWOに興味を持たれて『一度実際に触ってみたい』と感じられた方は、ぜひ気軽にお問い合わせいただければと思います」