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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

ユーザー企業のゴリ押しに負けたITベンダーの責任とは? 内製化を推進する前に知っておきたい心得

 本連載はユーザー企業の情報システム担当者向けに、システム開発における様々な勘所を実際の判例を題材として解説しています。今回取り上げるのは、システム開発において、無理を押し通すユーザーと抵抗しきれなかったITベンダーの判例です。DXが加速する中でユーザーがシステム開発を主導する流れが今後増えてくると予想されますが、発注側だからといって、何でも意見が通るわけではないようです。

DX時代は、ユーザーこそシステム開発の主役

 「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉を耳にする機会が増えました。すっかりDXは市民権を得たと言えるでしょう。DXは定義が広い言葉で、デジタルを活用しこれまでの業務プロセスを効率的に変え、社員に快適に働いてもらうといった業務効率化の側面に加え、より顧客にとって付加価値の高いサービスを、IT/デジタルを駆使して創出するという広義な意味合いもあります。

 様々なコンピュータープログラムを駆使するだけでなく、世の中にあるデジタルのデータをより活用して新しい商売を企画したり、売上向上、コスト削減、顧客満足度の向上などを実現する活動が活発になりつつあります。こうした活動は、今やアマゾンやUberといった米国のIT企業だけではなく、日本の大企業、中小企業、商店、行政機関などでも取り組まれています。

 世界最高レベルに達した日本のワクチン接種率も、その中心となったのはこれを管理するシステムと、各種のデータの集積があってこそです。これについてはいろいろと意見もあると思いますが、もしDXがなければいまだにワクチンを一回も打てない人が何千万人もいたのではないでしょうか。

 こういう時代になってくると、もはやシステム開発の主役はユーザー側となります。自分達の現状の業務課題や、実現したいサービスを最もよく知るユーザーが、自分達でシステムを作り上げてしまい、ITベンダーはユーザーの指示に基づいて手伝うだけ。そんなことが当たり前になる時代が、もうすぐそこまで来ていると言ってよいでしょう。

 何年か前に、ある転職支援企業の方から話を聞くことがありました。求職も求人もすべてネットで完結する業務プロセスを構築して大成功したこの企業では、社員の9割がIT技術者で、自分達でほぼすべてのシステム開発を行なっているそうです。

 システムの企画・要件定義はもちろん、実現方式の決定からプログラミング、テストまでのすべてを、ITベンダーではなく、社員達自身で行なっています。この社員達は、元々文系人間も含めた非IT人材が大半を占めており、そんな社員達が今でも日々サイトの更新しているそうです。

 そこまで至らなくても、現代の企業や組織には、ITやデジタルを本業支援の「道具」として考えるのではなく、ITやデジタルを「作り上げる」ことも本業の内、という考えにシフトする必要がどうしてもでてきます。

 たとえ営業職であっても、顧客を上手に管理・分析したり、色んな企画を検討したりすることで、商談を有利にもっていくシステムを作ることは、顧客を訪問して商談をするのと同じくらい重要な“本業”です。自分達でプログラミングをしなくても、最低限ITベンダーに思い通りのモノを作ってもらうために必要なことは、なんでもかつ優先的に行なうという心構えが必要な時代なのです。

 ただし、「自分達こそ主役だ!」と意気込むのはよいのですが、だからといってITベンダーの技術者達の助言も聞かずに、ただ彼らに「いいからやれ!」とだけ言うのはやはり危険です。

 他社でうまく行った、カタログ上は実現可能だ、技術的なリスクも具体的には報告されていない、そうした理由で開発を強行した結果、失敗に陥る例は、私の知る限りそう多くはありません。しかしユーザーが開発の主役となるべきDX時代、今後はこうしたことも増えてくるかもしれません。

 今回取り上げる判例は比較的古く、平成10年代の例です。開発の主導権を握るユーザーはまだ多くはなかった時代ですが、今後システム開発に取り組むユーザーへの注意喚起として、取り上げてみることにしました。

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無理を通すユーザーと、抵抗しきれなかったITベンダー

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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