
本連載はユーザー企業の情報システム担当者向けに、システム開発における様々な勘所を実際の判例を題材として解説しています。今回は通常のテーマから少し趣向を変えて、チャットのしすぎで会社をクビになった社員が、不当解雇だと主張した裁判事例を取り上げます。テレワークが急速に普及し働き方が変わる中で、「勤務時間」の定義を正しく把握しておくことが、トラブルを回避するポイントとなりそうです。
一日数時間の私用なチャットは、認められるのか
今回はたまたまIT企業で起きた裁判です。いつものようにユーザーとベンダーの争いではなく、どこの組織でもあてはまる労働契約というか、勤務時間についての裁判です。
皆さんは仕事中に雑談を一切しませんか? 離席して買い物や用足しに行くこと、昼休み時間を過ぎてオフィスに戻ること、そんなことは誰にでもあることでしょう。私もサラリーマン時代を振り返ってみると、雑談などはいつものことで、いちいち罪の意識を覚えることはありませんでした。では、私用のチャットはどうでしょうか。一日に数時間もチャットで私用な会話をしていたら、さすがに問題になるかもしれません。

今回は、そんなことが一因となって会社をクビになってしまった、IT企業の会社員が会社を訴えたお話です。その会社員は、不当解雇だ、チャットをしていた時間だって勤務時間のうちだから、その分の給料は払えと訴えています。さて、どのような結果になったのでしょうか。
(東京地方裁判所 平成28年12月28日判決より)
あるIT企業において、課長職にある社員が解雇された。原因はこの社員によるパワハラやセクハラの他、日に数時間、会社のパソコンを利用して、私用のチャットを行っていたことなどとされた。解雇された(元)社員は、パワハラやセクハラについては否定し、チャットについては一部認めたものの解雇までにはあたらないとして、IT企業に対する訴訟を提起した。裁判の中では、会社が退職時の給与精算の際、社員がチャットを行っていた時間分の給与を支払わなかったことについても争われた。
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...
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