プロジェクトマネジメントだけでなく、ビジネスゴールを設定すべき
押久保剛(以下、押久保):現在、日本のDXは足踏みというか苦労している話をよく耳にします。そこで、今回は現在よりも未来に向けてアクションを起こしていくための話を伺いたいと思っています。はじめに、お二人のプロフィールをお聞かせください。
水島壮太氏(以下、水島氏):デジタル庁の顧問に村井純教授がいますが、私は村井さんが創立時から携わられている慶應SFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)を卒業しました。学生時代は、iモードやモバイルコンテンツが流行していて、ベンチャーもたくさん生まれていましたね。私自身もJavaというプログラミング言語を学び、iモードのアプリを作っていました。そこから日本アイ・ビー・エムに行き、社会インフラのオープン化などに取り組むと、スマートフォンの台頭にあわせてDeNAへ。プラットフォーマーとしての開発を担当した後に、BtoBスタートアップやSaaSに興味を持ったことからラクスルでプロダクトの指揮を執っています。流行りものが好きなんですよね(笑)。私自身の役割は、元々はエンジニアでしたが、今は自分で作るというよりもプロダクトマネージャーとしてリードしていく立場です。
福田康隆氏(以下、福田氏):私は、ジャパン・クラウドという会社で海外の急成長しているBtoB SaaSの日本市場進出の支援をしています。今の段階で11社、2022年度中にあと数社支援予定です。オラクルのERP、セールスフォースのクラウドやCRM、マルケトにおけるマーケティングオートメーションなど、海外では広まっている、しかし日本ではまだ浸透していない未知の領域にフォーカスしてきた立場として、デジタル庁の取り組みに興味をもっています。水島さんの場合、民間と官の両方の側面がある。きっと共通点もあると思うので、いろいろと伺わせてください。
押久保:ありがとうございます。さっそくですが、水島さんが先ほどおっしゃっていたプロダクトマネージャーとは、どのような役割を担っているのでしょうか。
水島氏:プロダクトマネージャー(PM:Product Manager)は、技術的な解像度をもっていて、デザインやビジネスも理解している人ですね。優れたデジタルプロダクトを作るにはプロダクトマネージャーが必要だというのが、シリコンバレーでも定説になり、日本でもここ2、3年で浸透してきているように思います。
福田氏:特に変化や競争が激しいクラウド市場では、いかに早くプロダクトを提供、収益化できるかが求められるので、海外クラウド企業にプロダクトマネージャーは必ずいます。日本でも必要性を感じられていますよね。
水島氏:スタートアップやメガベンチャーには、プロダクトマネージャーはたくさんいます。しかし、社会的には、同じPMでもプロジェクトマネージャー(Project Manager)の方が多いです。デジタル庁にも、プロジェクトマネージャーが多くおり活躍されていますが、プロダクトマネージャーも活躍できる環境を整備することもCPOとしてのミッションです。
押久保:プロジェクトマネージャーとプロダクトマネージャーでは、どのように役割が異なるのでしょうか。
水島氏:プロジェクトマネジメントはクオリティやコスト、スケジュール、デリバリーのコントロールをすることが中心です。つまり、作るものはある程度決まっており、あとはいかにクオリティ高く納品してプロジェクトを終わらせるか。プロジェクトが終わった後は運用のフェーズに入り、プロジェクトマネージャーの主たる役割は終わるので、プロジェクトを完遂させることが目的になってしまう。これではモノはできるが、継続的な改善ができないということが起きがちです。
一方、プロダクトマネジメントのゴールは「顧客に価値を提供し続ける」ことです。システムを提供することはスタートであって、ゴールではない。たとえば「マイナポータル」のコンセプトが続くなら、ずっと改善し続けなくてはいけないはずです。マイナポータルに新たな行政サービスが追加されていくということは、これもプロダクトなのです。だからこそ、作って終わりでは駄目なのです。
福田氏:クラウドの時代になってからは、定期的な新機能のリリースや改善は当たり前の時代になりました。従来のシステム開発のように、要件定義に時間をかけてサービスインしたところで終わりという発想ではだめだということですね。
水島氏:そうです。リリースがゴールで、ユーザー数や滞在時間などの数値を継続的に追っていません。しかし、プロダクトの場合は追っていき、ビジネスKPIで常に改善していく。アプリのストアを見ていただければわかりますが、行政のアプリは一度リリースされるとそこから放置されてしまうものが多い。本当は、どんどん改善してアップデートしていかなくてはいけない。民間のアプリの多くは、数週間に1回くらいアップデートされる。そういう認識を(行政に)インストールしていくことが必要です。
福田氏:民間企業においても、まだまだ利用者のフィードバッグを活かしきれていないケースは多々あります。それが国になると、まさに国民の声を活かしていくことになる。言うは易しですが、そのカルチャーでデジタル庁が動き出しているということでしょうか。
水島氏:おっしゃる通りです。デジタル庁のプロダクトは国民が直接使うものも多いですから、ユーザー数が非常に多い。数日で100万とか、驚くほどの勢いでDLされていきます。つまり、国民全員がユーザーです。ターゲットは幅広いですが、それでも核となるターゲットを決めて、そのユーザーに対してユーザーテストはやる。まだ十分にはできていませんが、そうした取り組みは始まっています。
福田氏:BtoBのサービスであれば、規模や業種などでターゲット企業を明確にするところからスタートします。これは裏を返せばやらないところを決めるわけですが、国民全員がユーザーとなるとそうはいかないと思います。どのようにターゲットを決めているのでしょうか。
水島氏: ITリテラシーの高さや低さ、行政に対する知識の深さなどですね。浅沼さん(浅沼尚デジタル監)の領域なので、私からあまり言及できませんが、いくつかのペルソナを立てていくようなイメージです。ミーティングでペルソナを立てましょうと話したら、行政出身の方に「こういうの新鮮です!」と言われました(笑)。