ServiceNowの提唱するデジタルワークフロー
ローコード開発やノーコード開発に注目が集まるのは、ビジネス要求へのスピーディな追随が困難になってきたためだ。最近は、アプリケーションの開発スピードも、年単位から月単位、週単位あるいは日単位に短期化している。加えて、必要なソフトウェア数も増えることが予想される。ある予測によれば、今後4年間で約5億個のアプリケーションが新しく開発されるという。そうなると、リソースの限られるIT部門で、すべての開発ニーズを満たすことが難しくなる。
ServiceNow導入企業でも、今までになかったアプリケーション開発を経験する例が見られるようになってきた。たとえばカルビーは、従業員の出社率をリアルタイムに把握するアプリケーションをNow Platform上に開発した。企画から展開までに要したのは8営業日だという。「この例のように、迅速に組織内のアプリケーションニーズを捉え、提供する機会が今後は増える」と加藤氏は予測する。
このニーズに対応するために理解しておきたいのが、「デジタルワークフロー」である。従来型のワークフローが、ともすれば承認行為をサポートするというような狭い意味での理解にとどまっていたのとは異なり、デジタルワークフローはシステム連携をともなう。
あるアプリケーションのデータを、別のアプリケーションでも利用できるようにすることでエンドツーエンドのビジネスプロセスがデジタル化される。カルビーの例は、このデジタルワークフローに当てはまるという。
もう1つ、カルビーのようなアプリケーション開発のニーズが高まる中で、昨今重要とされているのが、市民開発者と呼ばれる人たちである。ローコード/ノーコード開発ツールは、IT開発を行うプロの開発者ほどのスキルを持ち合わせていなくてもアプリケーション開発をできるようにするものだ。
これらのツールに求められるのが、「スケーラビリティ」と「ガバナンス」である。エンドユーザーコンピューティングの全盛期、ITに少し詳しい一般のユーザーが自分とその周辺の仲間のためにアプリケーションを開発することがあった。
しかし2020年代の今、市民開発で対象となるアプリケーションのユーザーは一部の部門だけとは限らず、全社員が利用する可能性の方が高い。また全社的に利用するともなれば、開発や配布でも一定のルールを順守しなくてはならない。
ローコード/ノーコード開発環境の要件
「ローコード/ノーコード」の2つはしばしばセットで語られる。だがローコード開発は「プロ開発者向け」のアプローチで、「市民開発者向け」には一切コードを書かなくても動作するノーコードのアプローチが求められる。ServiceNowが提供するNow Platformは、両方の開発者向けに設計されており、大きく4つのコンポーネントから成る。
第一に「ノーコード/ローコード」と呼ばれる開発環境である。そして第二に、アプリケーション同士をつなぐための「ワークフローシステム連携」、第三に複数のアプリケーションをデジタルワークフローにまとめる際に重要になる「ユーザー体験」のための機能、最後に「AI」の機能である。デジタルワークフローは一度展開したら終わりではない。長期的な投資の始まりだ。リリースしたアプリケーションを陳腐化させないためには、プラットフォームが必要と加藤氏は話す。そのための4つのコンポーネントをプラットフォーム上で提供するのがServiceNowのNow Platformである。
Now Platformが提供する市民開発向けの開発環境がApp Engine Studioだ。App Engine Studioでは、開発に不慣れな人でも問題なく使えるよう、アプリケーションテンプレート、フローテンプレート、ガードレールと呼ばれる開発指針に基づく再利用を促す仕組みをセットで提供している。
また、デジタルワークフローの裏側は単体のアプリケーションが動いているのではない。あるアプリケーションで何かの承認手続きを実行すると、別のアプリケーションがその結果を受け取り、処理が続く。アプリケーション間のデータのインポート/エクスポートを柔軟に行えるよう、Automation EngineもNow Platformでは提供する。
Automation Engineには大きく2つの機能があり、1つがAPIを利用してアプリケーションをServiceNowに接続するためのIntegration Hub、もう1つがAPIを用意していないレガシーアプリケーションと連携するためのRPA Hubだ。
DXの3段階とデジタルワークフロー
デジタルワークフローはDXにも関係する。そのためDXの成功につなげるためには、段階的に進めることが有効とされる。第1段階は、書類を電子的に置き換える「デジタイゼーション」である。大半の企業がこの段階で足踏みをしているかもしれない。続く第2段階がビジネスプロセスの電子化を行う「デジタライゼーション」である。ビジネスプロセスを見直し、人間とITの役割分担を明確にした上で自動化する。業務を効率化する上でこの第2段階は避けて通れない。最後の第3段階がイノベーティブなビジネスプロセス/ビジネスモデルを創造する、本来の意味での「デジタルトランスフォーメーション」だ。
「第1段階と第2段階の差は非常に大きいと思う」と加藤氏は指摘し、市民開発とDXの関係にも言及しつつ、市民開発のユースケースを紹介した。その1つが、第2段階のデジタライゼーションの中核であるビジネスプロセスの見直しや自動化に焦点を当てるものだ。
また、レガシーマイグレーションもユースケースの1つになる。第1段階で止まったままの企業はレガシーシステムが残っていて、市民開発者がやろうとしている新しいビジネスニーズをうまく取り込めていない。たとえば、既存のワークフローの機能追加に限界を感じている場合や、既存グループウェアの移行を計画している場合がこのユースケースに当てはまる。加えて、DXプロジェクトの見直しも有効なユースケースである。
たとえば、「業務の自動化でRPAにこだわりすぎていなかったか」というような場合だ。単純作業の自動化にRPAは大きく貢献するが、RPAで自動化できるビジネスプロセスは限られる。複雑なビジネスプロセスにRPAを当てはめても、メンテナンスの負担が大きくなるばかりになってしまう。レガシーシステムと同じように、DX推進の阻害要因になりかねない。
このようなユースケースの背景にあるニーズに対して、Now Platformは以下3つの解決策を提示する。
- モバイルやWebのコミュニケーションツールをフロントにデジタルワークフローを構築する
- ERP、SCM、CRMなどの各分野の主要SaaS、AWSやMicrosoft Azure上のアプリケーションを連携するデジタルワークフローを構築する
- すべてのワークフローの基盤に利用する
Now Platformをプラットフォームとして使うメリットは、アプリケーションを改変することなく、ユーザビリティを改善できることだ。この仕組みを利用してグローバル共通の汎用ワークフローを構築したのが富士通である。
同社は、20年以上稼働していた旧決済システムをNow Platformで刷新した。その結果、業務効率化を達成したのみならず、改修や新機能の提供も容易にできるようになったという。今後はこの新決済システムを利用しつつ、より高度な使い方を模索していくと思われる。
ハイパーオートメーションの実践に備える
ServiceNowは、第2段階のデジタライゼーションの先もサポートできると考えている。ガートナーが発表した『2022年の戦略的テクノロジーのトップトレンド』によれば、その1つに「ハイパーオートメーション」がある。加藤氏は「ハイパーオートメーションは、DXの3段階におけるデジタライゼーションの先にあるもの」という解釈を披露した。
ServiceNowが目指すハイパーオートメーションは、「あらゆるシステムがつながり、それを元に自動化が実現され、さらには自動化プロセスから得られた情報の蓄積を元に、より高度化を実現すべく、プロセス自身が進化し続けることを可能とする」ことであるというのだ。その実現に必要になるのが、以下の4つである。- ワークフロー機能
- ローコード/ノーコード開発ツール
- API連携/RPA連携機能
- AI/プロセスマイニング
ビジネスプロセスの改善は、ユーザー部門とIT部門の協力的関係があって初めてできることだ。その実現に向けては、「どちらの部門にとっても使いやすい機能を提供することが重要」とServiceNowは考えている。最近のSaaSはAPI連携が可能だが、レガシーシステムにも接続できるようRPA連携も提供するのもその一環である
さらに、これからはビジネスプロセスの継続的改善を支援することも必要だ。常に現在の業務の見直しを行い、新しいビジネスプロセスに最適化するとなれば、人間だけでなくシステム側も追随しなければならない。最適化するべきポイントを人間だけが抽出するのは難しい。そこをサポートするためにAIやプロセスマイニングの機能も提供することが求められる。
ハイパーオートメーションへの道のりは、デジタイゼーションを始めることから始まる。単なる電子化の第1段階でも、何もやらないことにはDXは始まらない。第1段階を卒業した先に、第2段階のデジタライゼーションがある。
そして、ハイパーオートメーションを意識し、より高度な自動化を実践する。ビジネスプロセスの変革も、大きくビジネスを飛躍させる可能性がある立派なDXだ。より高度な自動化を意識し、ハイパーオートメーションを意識しておいて損はない。
ローコード/ノーコード開発ツールは実現手段にすぎない。変革を実現するには、全社的な取り組みだけでなく、ガバナンス強化のために業務やシステムも属人化させないプラットフォームが今後必要になるだろう。