トップ写真:日清食品ホールディングス株式会社 執行役員・CIO(グループ情報責任者) 成田敏博氏/富士通 柴崎辰彦氏
前回の記事(日清食品グループCIO成田氏に聞く ローコード開発による「内製化」の推進)はこちら。
「使いたい」から自ら「使うアプリ」を目指す
社内業務のペーパーレス化をキッカケにスタートしたローコードツールの活用は、営業現場に範囲を拡大していった。主に社内のペーパーレス化を狙ったkintoneに加えて、MicrosoftのPowerAppsを使ったモバイルアプリの導入だ。
例えば、営業担当者が商談に出向いた際、取引先からチラシに掲載する商品情報の提供を依頼された場合、営業担当者が手元のアプリで検索し、その場で回答できるようにする仕組みを、Microsoft365上に構築している。
「これまでは、営業担当者が出先にいる場合、会社にいる別の担当者に連絡し、確認してもらった情報を取引先に共有していたのですが、営業担当者が手元のスマートフォンを使って確認し、その場で回答出来るようになりました」(成田氏)
営業部門のアプリ担当者がハンズオンでツールの使い方を覚え、開発を行い、現場の営業担当者からフィードバックをもらいながら修正した結果、ハンズオンで2時間、開発17時間、説明が1時間、修正に5時間の都合25時間で公開することができた。
「かけた労力は最小限で、課外活動のような取り組みを通じて完成させました。PowerAppsのライセンスは、Microsoft365の中に入っているため、追加の費用も必要ありませんでした」(成田氏)
アプリ担当者は、元々、自ら工夫してこうしたツールを作り、それを現場の人に活用してもらうことが好きな人材だった。
「いろいろなフィードバックを受けても、嫌な顔をせずに『確かにそうですね。じゃ直してみます』と自発的に取り組んでくれました。彼らが進め方を形にしてくれたので、『これなら出来そうだ』とアプリ開発に取り組むIT部門のメンバーが増えていきました」(成田氏)
開発に携わったアプリ担当者たちには、より使いやすいシンプルなアプリにしたいという熱意があった。例えば、フィルターや並べ替えのナビゲーションは、コンボボックスではなくボタンをワンタッチで押す形式にした。画面下のメニューについても、メルカリのアプリのようなデザインを取り入れてはどうかという意見も出た。メニューアイコンや文字の配置は試行錯誤を重ね、検索ボックスには薄いグレーの文字で品目コード、略語、商品名などのガイド文字を加えるなど、入力しやすさにも徹底的にこだわった。
「現場で開発し、すぐに周囲のスタッフに見てもらい、さまざまな要望を取り入れてきました。その1つの例がひよこちゃんのキャラクターで、ユーザが何をすべきかを案内してくれます」(成田氏)
ユーザの利便性を考えてUI/UXを追求した結果、通常であれば要望や機能改善要求だけに終始しがちな現場部門からのコメントが、「いつから使えるのか?」「今すぐ欲しい」といった前向きな声に変化した。今後スマホ版に加えて、PC・タブレット版をリリース予定だ。日清食品グループでは、「モバイルファースト」を提唱している。製造、販売、在庫などの業務を、パソコンを使わなくてもモバイルで行えることで効率性が上がり、BCP対策にもなる。「現場や出先からの利用が鍵になる」と成田氏は言う。
モバイルを活用した場合に、様々な作業が発生する。例えば、データ閲覧や入力、撮影、画像認識、QRコードの読み取り、QRコードの表示などだ。NFC(近距離無線通信)でモバイルSuicaのようにデータを読み取り、録音・音声認識、最近ではMR(Mixed Reality)など、少し前であれば近未来的なことが、自分たちの手でシステムに組み込める世の中になって来ている。
「実現手段は、すでに手の上に乗りつつあると思っています。こうした技術を適用することでどういうビジネス価値を生み出せるか、どういったユースケースがあるかを考えることが大切になってくるという話を社内でしています」(成田氏)