HPC拡充のための場所も電力も足りない
SUBARUは、「2030年死亡交通事故ゼロ」を目指すと表明している自動車メーカーだ。実際、販売台数100万台あたりの死亡重傷事故数は、ここ10年ほどで50%削減されている。この取り組みをさらに進めるには、これまでとは異なるクルマを作り、極めて高い衝突安全性などを確保しなければならない。
そのために重要となるのが、クルマを作る際に行われるさまざまなシミュレーションだ。SUBARUではこれまで、シミュレーションを行うためのHPC環境を本工場のある群馬に構築し、運用してきた。シミュレーションに求められる計算処理要求は増えつつあり、処理性能の増強や適用範囲を拡げるため毎年のようにHPC環境の拡充を図っている。しかし同拠点には「場所もない、電気もないという課題に直面していました」と言うのは、SUBARU エンジニアリング情報管理部 IT運用管理課の竹熊義広氏だ。
特に大規模HPC環境向けの電力不足は顕著であり、供給設備の拡充も難しいという。そのためSUBARUでは、HPC環境を外部のデータセンターに置くプライベートクラウド環境を選択することに。一部の高いレスポンスが求められる計算領域を除き、オンプレミスにあったHPC環境を都内のデータセンターに移行したのだ。
移行先のプライベートクラウド環境は東京にあるため、群馬の本工場とは物理的な距離がある。そこでネットワーク帯域を確保するために専用線を用意することにより、「プライベートクラウドに移行しても、ユーザーはストレスなく利用できるようになりました」と竹熊氏。とはいえ、ユーザーに負担をかけないよう高速回線を用意できた反面、そのコストは高かった。今後のHPC環境の拡充をスムーズに行うためにも、コストは抑えたい。その検討をしていた際に提案されたのが、OCIのHPCサービスだった。
「OCIで見積もりをしてもらったところ安価に実現できそうだとわかり、本格的に検討することにしました」と竹熊氏は振り返る。しかしながらSUBARUは、他の自動車メーカーと比べてもパブリッククラウドをそれほど積極的に利用してこなかった背景がある。そこで日本の自動車メーカーで構成する業界団体の日本自動車工業会におけるクラウドワーキンググループなどに参加。先行して利用しているメーカーなどから「OCIで問題ない」との証言を得るなど情報収集も積極的に行ったという。
もう1つの不安材料が、自動車を造るためのCAE知識やノウハウがOracleに不足しているのではという懸念だった。「これについては、Oracleに不安であることを素直に伝えました。そこからOracleが、アルテアエンジニアリングやアルゴグラフィックスなどHPCを活用するソリューションベンダーと連携し、タッグを組んでくれることになりました」と竹熊氏は説明する。
その上でOCI選定の決め手となったのが、「Oracle Cloud Lift Services」だった。これは、顧客企業のクラウド移行を支援するサービスをOracleが無償で提供するものだ。OCIを初めて利用する顧客向けに、クラウド利用開始までの期間短縮とリスク低減を目的として提供される。
Oracle Database On Exadata Cloud、VMware On Cloud、High Performance Computing Application On Cloudなどのワークロードが対象で、実機検証や早期立ち上げ支援サービスを提供。加えて日本では、独自のケーススタディ支援、クラウド化の検討における不安や懸念を整理し、検討時間短縮やリソース不足の解消に貢献するフィジビリティスタディ支援も提供する。