長期的成長の脅威になった気候変動リスク
日本企業のSXへの取り組みは全般的に遅れていると言われるが、ここ1、2年で一部の大企業の危機意識が高まってきた。世界的大手企業の最高経営責任者(CEO)を対象とする「KPMGグローバルCEO調査2021」の結果を2020年のものと比較すると、2020年の調査における「環境/気候変動リスク」への懸念は全体の4位であったのに対し、2021年にはそれが「サイバーセキュリティリスク」「サプライチェーンリスク」と共に同率の1位に位置付けられている(図1)。VUCAと呼ばれる時代背景の中、1年間でCEOの認識が大きく変化したことがわかる。3つのリスクが同率1位になったことは、混迷を極める現在のビジネス環境を反映している。
2015年開催の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)にて示されたCO2削減目標達成への道のりが、かなり厳しいことが明らかになったことは重く受け止めるべきだ。このCOP21で採択されたパリ協定では、「世界的な平均気温上昇を産業革命以前と比べて2℃よりも十分に低く保つと共に、1.5°Cに抑える努力を追求する」目標が掲げられた。この1.5℃目標を達成するには、2030年までに全世界のCO2年間排出量を2010年度比で45%削減しなければならない。これは、毎年前年比7.6%削減のペースを実現し続けなくてはならないことを意味する。ところが、世界の排出量は右肩上がりに増え続けている。COVID-19の影響により、全世界で経済活動が低迷した2020年でさえも、世界のCO2排出量は対前年度比でマイナス8%に留まった。今後世界経済が再開されていく中において、これまでと同じ社会システム、エネルギーインフラを続けていては、目標達成は難しい。
KPMGコンサルティング パートナー 麻生多恵氏は「コロナ禍で世界経済が止まったにもかかわらずの結果を見て、世界各国の首脳、グローバル企業の経営者達は強い危機感を抱いた」と指摘する。再生可能エネルギーの開発、個人の行動変容を含む抜本的な対策がなされなければ、目標を達成できないことが世界の共通認識となってきたのだ。とは言え、気候変動リスクへの対応に対して各国の取り組みには温度差があるのが実情だ。この分野で世界をリードするのはEUであるが、世界のCO2排出量に占める割合は1割弱にすぎない。日本も3%程度だ。一方、排出量全体の約4割を占めるのが中国と米国である。米国はバイデン政権誕生後にスタンスを変えたが、中国とその他の新興国・開発途上国は取り組みに消極的な姿勢を示している。先進国は新興国に協力を呼びかけるが、過去の自然資本搾取への反発から積極的にはなれない構図がある。だからと言って、ルールメーカーのEUにリードを任せきりにするわけにはいかない。国際社会の一員として、日本にも責任を持って目標達成への貢献が求められている。