SaaS間での「データ連携不足」がもたらす問題
SaaSが次々に導入される一方で、SaaS間のデータ連携がしっかりと行われないことが多い。たとえば、コンタクトセンターの現場での例を挙げてみよう。
顧客の情報が保存されているCRMと顧客サポートツール(問い合わせ管理など)のデータが連携されておらず、担当者はCRMとサポートツールを何度も行き来しなければいけないということもよくある問題だ。サポートが終わった後、やり取りした内容をCRMに残すために、サポートツールからコピーアンドペーストするといった作業が発生することもある。
同じ作業を毎日何度も繰り返すサポート業務においては、このようなデータ連携不足によって起きているコストは無視できない。50人のオペレーターが1日40件のサポート業務を行っているコンタクトセンターにおいて、1件あたり1分の転記作業が発生していれば、年間1万時間以上のコストがかかることになる。また、コスト面以外でも、データ連携不足によって顧客とのやりとりの情報が引き継がれず人的ミスが発生した場合、クレームにつながることもあるだろう。
データ連携不足の問題は、目の前で起きている問題にとどまらない。データが連携された上で適切に管理されていなければ、データから価値を生み出しづらくなる。先ほど例にあげたコンタクトセンターで言うならば、顧客情報が統合されていれば、サポート対応が売り上げにどれだけ貢献しているかを分析することも可能だ。
また、近年は「ChatGPT」をはじめとしたAI技術の進展が目覚ましい。AIを活用する前提に立っても、データが連携された状態で管理していないと、AIを活用したアプリケーション開発などが途端に難しくなる。データ連携不足は、今現在のコストやクレームの問題だけでなく、将来的な会社の成長機会まで奪ってしまうのだ。
データ連携不足は、組織の問題にもつながる。システム開発の分野で「コンウェイの法則」という言葉を聞いたことがある人も多いだろう。「システムのアーキテクチャは組織構造を反映させたものになる」という法則だ。これは一つのシステム群の話であるが、会社全体にSaaSが浸透した場合、そのSaaSのアーキテクチャが組織構造を反映させたものになることは明白だ。そして、そこでのデータ連携不足というのは、そのまま組織間の連携不足につながってしまう。先述したCRMと顧客サポートツールのデータが連携できていない例も、セールス部門とコンタクトセンター部門の間に“溝を掘る”行為といっても過言ではない。
これらの問題を踏まえると、SaaS間のデータ連携はすぐに検討するべき大きな問題の一つと言える。本稿ではSaaS間のデータ連携を実現するために、カスタム開発で実現する方法と“SaaS間連携”のためのSaaSを活用する方法の二つに分けて説明する。
SaaS間連携を開発する方法
日本国産のSaaSは、APIに対応していないものが多い。日本は海外に比べて「APIエコノミー」が発達しておらず、APIを提供することがスタンダードになっていないことも理由の一つだ。
APIに対応していなければ、データ連携のシステムを構築するハードルは大きく上がる。そのため、特にエンタープライズ企業では、データ連携のためのカスタム開発がSaaS導入の初期開発コストを膨らませる要因の一つになっている。
また、SaaSのカスタム開発を請け負うSIも多いが、最初は良くともメンテナンスコストまで含めると膨大な費用が発生することもある。SaaSはアップデートされていくことこそがメリットであり、カスタム開発された部分をSaaS事業者側が常に考慮してくれるとは限らない。アップデートの度、SIに修正を依頼するとなると、想定しなかった巨額の出費を迫られることもある。
さらに、開発コストを抑えるためにRPAを活用するという方法も考えられるだろう。RPAを使えば初期コストを抑えつつ、SaaS間の連携を実現することができる。ただ、これもSaaSが公式に対応を認めているものではないため、アップデートの度にRPAの設定が壊れてしまい、再設定が必要になるリスクがある。カスタム開発にしろ、RPAの活用にしろ、SaaS事業者側が公式に対応している形式でなければアップデートに追随するためのメンテナンスコストが発生するのだ。
もちろん、SaaSの中にはあらかじめカスタム開発領域を用意しているものがある。その領域で、決められたフォーマットで開発するものであれば開発コストが抑えられ、SaaS側が公式に用意しているフォーマットのため、アップデートもSaaS側で対応してくれる。初期開発コストだけでなく、メンテナンスコストの削減にもつながるだろう。仮に、データ連携の必要性が現時点でなかったとしても、SaaS導入の際にはそうしたカスタム開発領域の有無を確認しておくと、将来の拡張性を上げることができるため、導入前には確認しておくことが望ましい。