旅館、証券会社……事例から見る「SaaSデータ活用」の好例──来るべき“AI時代”にも通用する考え方
第4回:SaaSネイティブなデータ活用の方法と課題

SaaSの導入が進む中で、SaaS上にデータが溜まってきている会社も多いのではないだろうか。SaaSは、以前からある内製システムと比べると、導入費用や運用費用が削減できるというメリットがあるだけでなく、“SaaSならでは”のデータ活用が可能なところも大きな特長である。今回は、SaaSならではのデータについて紹介し、その活用事例や活用が難しいケースについて解説する。
SaaSに溜まっていく膨大なデータ
SaaSには様々なデータが溜まっている。本記事では、SaaSに溜まるデータを3つのカテゴリーに分類する。
まず1つ目に、「SaaSと内製システムで共通して溜まるデータ」がある。これは、業務に欠かせないデータであり、それを溜めること自体がシステムの目的となるようなコアデータが主となる。たとえば、顧客情報や製品情報、販売情報、取引履歴などが該当する。また、基本的なセキュリティイベントデータやシステムパフォーマンスに関するデータも蓄積されることがある。
2つ目に、「SaaSでは標準的に溜まるものの、内製システムでは蓄積が難しいデータ」がある。これには、システム内のユーザーアクティビティデータ、詳細な監査ログ、より高度なセキュリティイベントデータや、より詳細なシステムパフォーマンスデータなどが含まれる。これらのデータは、内製システムでは絶対に必要でなかったり、最低限の要件しか設定されなかったりするため、蓄積が難しい。しかし、SaaSではこれらのデータを活用して製品の改善や安定性、安全性といった差別化要素を見出すために利用できるなど、標準的に蓄積されるように構築するだけのインセンティブがある。そのため、SaaSには標準的にこれらのデータが溜まっている。さらに、AIを用いて顧客データから有用なインサイトや予測データを生成することもある。これらのデータも、内製システムでは手に入らないデータの一例である。
3つ目に、「内製システムでは蓄積が非常に難しく、SaaSでしか手に入らないデータ」が存在する。これは、クロスカンパニーデータやベンチマークデータのことだ。これらは様々な企業のデータを集計して得られるデータであり、業界全体の傾向やベストプラクティスを分析することが可能である。これにより、自社の競合優位性をデータから明らかにしたり、事業戦略の最適化を行ったりすることができる。この種のデータは、直接システム上から閲覧可能なものよりも、平均値との比較がダッシュボードに表示されたり、カスタマーサクセスマネージャーが他社との比較を教えてくれたりする形で提供されることが一般的である。これは、SaaSを利用する最大のメリットと言えるだろう。
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中山 智文(ナカヤマ トモフミ)
カラクリ株式会社 取締役CTO兼CPO 中山智文(なかやまともふみ)
1992年生まれ。2016年、東京大学大学院在学中に自身の研究分野である人工知能・データサイエンス技術の社会実装を進めるため、カラクリ株式会社を共同創業し、CTOに就任。主にエンタープライズのカスタマーサポート向けAIソリューション群を...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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