注目集める「チーフ・ラーニング・オフィサー(CLO)」とは
──まずは、日本で馴染みのない「チーフ・ラーニング・オフィサー(CLO)」の役割について教えてください。Qlikはいつから、どのような理由からCLOという役職を設けているのでしょうか。
CLOは新しく、ユニークな役割を担っています。基本的には、「顧客」「パートナー」「社内」の3者に向けて、データリテラシーやソフトスキルを身につけるための支援をしています。対象により活動は異なりますが、Qlikのメリットを最大限に享受してもらうことは変わらず、スキルを身につけて役割に関係なくプロフェッショナルとして成長することを願っています。
そのような役割を担うCLOに、私は5年前に就任しました。QlikがCLOを設けた理由は、“世の中の流れ”だと推測しています。テクノロジーが高速に変化する中で、その進化については語られますが、テクノロジーをどう使うかという部分はあまり注目されません。そこで大切になってくるものが、最初に挙げたソフトスキルです。
大学でプログラミング言語などを学んでも、時が経つと実用的ではなくなるものがあります。現在求められているものは、データに対するクリティカルシンキングのような思考力を習得すること。そしてアップスキルし、データを使って意思決定する方法を学ぶことです。
データリテラシーは、まだ大学やビジネススクールでは学べません。データを扱う技術を提供する我々であるからこそ、従業員や顧客、パートナーを教育することができると考えています。
──では、社内向けに行っている取り組みを具体的に教えてください。
Qlik社内には、数年前と比べてはるかに多くのデータが存在しています。データは複雑になっており、解決すべき課題も単純ではありません。そこで重要なのが、我々が持つバイアス、中でも“無意識のバイアス”を理解すること。
バイアスの1つに確証バイアスがあります。認知バイアスの1つで、ある考えを持ちながらデータを見ることで、その考えに納得してしまうというものです。認知バイアスがかかった状態でデータを見ても、決して活用しているとは言えません。考え方に適した一部のデータしか見ていない可能性があるためです。
そこで、このような認知バイアスの存在に気づいてもらうためのワークショップを開催しています。その一例として、多様な視点をもってバイアスを軽減するため、データを使ったストーリーテリングが挙げられます。これは、データから洞察を得て、それを関係者や同僚に共有し、彼/彼女らがそれを理解することで解決に寄与すること。そのためのコミュニケーションや分析手法、仮説に対する取り組み方などのスキルを身につけてもらいます。
──社外向けの取り組みではどうでしょうか。
顧客に対しては、成果を上げるためのカスタマーサクセスチームと一緒に動きます。我々は、主に開発者をターゲットにアナリティクスに関する手法を教えています。たとえば、ダッシュボードの構築、正しいKPIの設定、アナリティクスの診断などのツールの使い方などです。
それと同時に、データリテラシーの概念も教えています。データリテラシーがなければ、データの解釈を誤ってしまうからです。データは正しく適切なのに、解釈を間違えてしまうケースはよく見受けられます。
なお、導入サービスやカスタマーサクセスマネージャー付きのパッケージには、これらのサポートも含まれています。フリーミアムモデルをとっており、後から追加することもできます。
よく見受けられるパターンは、本稼働前にデータモデルやアプリケーション開発者をトレーニングするセッションを1~2回実施するという形です。本稼働後は、ビジネスユーザーやコンシューマーとデータを共有するためのアプリケーション開発に取り組むことになりますが、これらはウェビナーなどセルフラーニングで学ぶことができます。もちろん、カリキュラムを導入し、社内で直接指導することも行っています。
──CLOの取り組みで指標としているものは?
私はCLOとして最高顧客責任者に成果を報告しているのですが、先ほどのような教育提供で得られた売上はもちろん、重要な指標として顧客維持率も追いかけています。
個人として最も大切にしていることは、行動の変化。つまりは、「会議中にQlikのデータを使う機会が増えた」「データで意思決定をしている」などの行動変容です。こうした行動の変化を追跡することは難しいのですが、テレメトリー技術を用いてQlikの利用状況を測定することで、たとえばストーリーテリングの機能を使っているのかなどを見ています。たとえば、ストーリーテリング機能の利用が増えれば、データを使ったコミュニケーションを重視している成熟した組織だと一般的に言えるでしょう。