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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

退職社員への誓約書はどこまで有効?社内情報流失の裁判事例から、検討すべき要点を考える

 本連載はユーザー企業の情報システム担当者向けに、システム開発における様々な勘所を実際の判例を題材として解説しています。今回取り上げるテーマは「退職社員への誓約書はどこまで有効?社内情報流失の裁判事例から、検討すべき要点を考える」です。転職したり起業する際、退職した会社で得たノウハウや情報は利用しないということを約束する誓約書の提出を求められることがあります。ですが、もしすべてのノウハウを禁止されると、退職をした人間としては仕事を進めることが困難になってしまいます。そこで今回はそういった退職時の誓約書について、企業そして個人が注意すべき勘所を学びましょう。

退職した社員によるノウハウ流出

 今回は「ITユーザーの心得」というよりも、もっと広くITに係る企業として注意しなければならない、情報やノウハウの取り扱いについてお話ししたいと思います。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉がすっかり定着し、またクラウドサービスやローコードツールなどにより、ユーザー企業も直接モノづくりに関わることが多くなった昨今、自社ITに関わる様々な文書やノウハウがユーザー企業の内部に蓄積されるようになりました。

 これら蓄積されたものの中には、ユーザー企業にとってビジネス上で重要な情報が含まれていたり、他社との差別化のために有効な武器になるものも含まれたりすることもあるでしょう。

 仮に社員が退職する際に、こうした情報を外に持ち出すことを制限することはどこまで可能なのでしょうか。そのようなことが問題になった裁判の例をご紹介します。

 今回考えるのは「社員が退職時に提出した誓約書がどこまで有効であるか」という観点。なお、取り上げる判決にはいくつか興味深い論点があるため、次回以降も順次取り上げていく予定です。

 転職を経験された方は知っているかもしれませんが、会社を辞める時には「その会社で得た情報やノウハウは会社と競業となる活動には使わない」、つまりライバル会社に再就職したり、自分で会社を興したりしても退職した会社で得たノウハウや情報は利用しないことを約束する、誓約書の提出を求められることがあります。

 退職を受け入れた会社の立場から見れば当然に思えるかもしれませんが、もしすべてのノウハウを禁止されると、退職した人間としてはとても困ったことになってしまいます。

 たとえば私は最初に入った会社で、それこそコンピュータの基礎から様々なプログラミング言語、ネットワークシステムに関するノウハウや情報をいただきましたが、それらを転職先の会社でまったく使えないとなれば、事実上IT業界に転職することは不可能だったでしょう。

 実際にはそのようなこともなく、退職した会社は私がIT関連の仕事を続けることを許容してくれています。では一体、この誓約書の効力というのはどの程度のものなのでしょうか。そのあたりについて、まず事件の概要からご覧いただきたいと思います。

【東京地方裁判所 令和4年5月31日判決】

 ソフトウェアテスト専門業者(以下、前職企業という)の社員が、AIの研究開発、テスト業務を行う会社(以下、転職先企業という) に転職した。この社員は、前職企業の入社時に守秘義務を負う旨の誓約書を提出し、退職時にも守秘義務と競業避止義務を負う旨の誓約書を提出していた。(誓約書の内容について)

 その後、社員には転職先企業でテストに関する研修を実施する機会があり、その際、前職企業で作成していたテスト仕様書のひな型の一部を利用して資料を作成して利用した他、転職先の会社では、顧客向けのソフトウェアテストに、この資料を用いて作成したテスト仕様書を作成し納品もしていた。

 これについて、前職企業は、社員が各誓約書に違反したことを理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求を要求した。

次のページ
どんなノウハウ・情報までが許されるのか

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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