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LayerX松本勇気×KADOKAWA Connected塚本圭一郎 トップランナーによる組織変革論

“エンジニア×ビジネス”を軸としたリーダー2名の頭のなかを覗く

 エンジニアリングを駆使してビジネスの変革に取り組むトップランナーによる対談企画。KADOKAWA Connected CDO(Chief Data Officer)塚本圭一郎氏とLayerX 代表取締役CTO 松本勇気氏が“エンジニア的思考”を基軸にした事業変革について語り合った。

「ビジネス・ソフトウェア・ヒト」の3要素を設計する

塚本圭一郎氏(以下、塚本):松本さんとお話しするのは初めてですね。私は新卒でドワンゴに入社し、ビッグデータ分析基盤の構築と運用、特にニコニコ事業向けの基盤構築に従事しました。その後、KADOKAWAにもこのノウハウを輸出するようオーダーを受け、KADOKAWA Connectedに参加。現在はKADOKAWA ConnectedのCDOとして、KADOKAWAグループのデータ基盤と戦略の策定に携わっています。

松本勇気氏(以下、松本):私は東京大学在学中にGunosyに参画し、ソフトウェア開発を担当しました。Gunosy上場後はCTOとして全社統括、採用、組織作り、新規事業開発を経験しています。その後、DMM.com(以下、DMM)へ移り、約3,000名規模のテックカンパニー化に向けた組織改革に2年半携わりました。現在はLayerXの代表取締役CTOとして、必要なスキルやリソースを補う役割を果たしています。

塚本:DMMのような大規模組織で変革に取り組まれていたのですね。私自身のチームは当初約10名だったのですが現在は約35名にまで増えており、この成長にともない階層が増えたり、グローバル含め約7,000人規模のKADOKAWAグループの戦略にも携わるようになったりと、すべてを見渡すことが難しくなったと感じます。松本さんは何を意識して組織を率いていますか。

松本:私は組織だけに留まらず「ビジネス・ソフトウェア・ヒト」の3要素を一体で設計することの重要性を意識しています。組織は事業のために存在し、それらはソフトウェアと密接に関連しているからです。

 また、ビジネスの成長、投資家の資金なども考慮に入れると「ヒト・モノ・カネ」のすべてを適切に配置するためには、どのように設計すべきかを常に考えています。たとえば、1年半後の会社の姿、事業の方向性を考える際、事業やそれに必要なソフトウェア、プロダクト、それらを創造するための人材と組織の構成を総合的に見る必要があるでしょう。その上で、どのようなポジションが生まれるかを検討し、包括的に捉えながら設計を進めていきます。その過程を経ることで、初めて組織について議論できるようになると考えています。

LayerX 代表取締役CTO 松本勇気氏
(右)LayerX 代表取締役CTO 松本勇気氏

 加えて“投資家の視点”も重要で、会社は最終的に彼らから投資的な評価を下されます。そのため中期経営計画は重要な発信源であり、その合理性をしっかりと説明する必要がありますよね。ここに組織論が計画的に適合したとき一貫性が生まれ、迷いがなくなります。プランニングと組織論、事業の関連性は非常に重要ですね。

塚本:KADOKAWAは出版社から始まった企業の中でも珍しく上場しており、他社と比べても株主へのコミュニケーションはやはり重要ですね。もちろん、文化的な価値を生み出したり良い作品を届けたりすること、それらと“株主満足度”を両立することは簡単ではありません。そのため編集者やクリエイターが価値あるものを作りつつ、株主にも満足していただけるようなバランスが重要です。

 この板挟みのような状況を解消するためには「適切なマネジメント」が非常に重要だと考えていますね。松本さんはDMMやLayerXで複数の事業を展開していますが、マネジメントの手法に変化はありますか。

松本:私は「組織が1,000人を超えてもスケールすること」を常に考えています。DMMとLayerXでは規模が違いますが、成長の過程で非連続性が生じないよう特に注意していますね。“到達不可能なルート”を辿らないよう、計画的な成長を心がけています。これまでの経験からうまくいかなかった点を改善しながら会社を作り上げるようなイメージですね。LayerXも約250名にまで拡大しており、これまで在籍してきた組織と遜色ない企業規模に成長してきました。

 その状況下、組織をスケールアップさせるために重要視していることは「意思決定の際にズレを生じさせないこと」です。これを実現するために「“LayerXらしい意思決定”とは何か」と自身に問い続けた結果として組織文化を重んじており、我々と一致した思考パターンを持つ人材の採用に力を入れています。つまり、同じような思考パターンを全員が持つことでメンバー間の迷いをなくし、組織の効率的な成長を促進しているのです。

塚本:海外の大手テック企業でもカルチャーやバリューが非常に重要視され、採用でもこれらを心がけていますね。とりわけ入社後に社員が「ミッション・ビジョン・バリュー」などに触れるような機会を設けることが欠かせないと思いますが、LayerXではどのような取り組みをされていますか。

松本:社内では、経営会議の議事録まで公開しています。非常にオープンであるが故に情報過多だと言われることもありますが、情報を徹底的に公開することでメンバーが“意思決定の背景”を理解できます。

 意思決定の過程で重要なことは「なぜそのように考えたのか」を理解するための手段を増やすことです。たとえば、「お客様第一主義」という言葉だけでは意味があまりなく、具体的な意思決定の際にどう行動できるかが重要です。値上げをするかしないかといった重要な意思決定を「お客様第一主義」に基づいて行うなど、具体的な行動指針をもてることが大切でしょう。LayerXでは、「徳」「Trustful team」など5つの行動指針[1]を設けており、さまざまな場面でそれらを感じ取れるようにしています。

 また、毎週月曜日の朝には全社の定例会を設けて、役員が今何を考えているか共有していますね。さらにDMM時代からの習慣として日報を書くことで、重要なミーティングやお客様との会話など、大切だと思ったことを共有することも続けています。

塚本:素晴らしいですね。私たちも最近「ミッション・ビジョン・バリュー」を新しく定義し、全社集会などで共有しています。とはいえ、接点やコミュニケーションの機会は限られており、その回数や機会を増やすことで浸透が促進されるのではないかと感じました。

松本:たしかに「ミッション・ビジョン・バリュー」を心の底から信じることは難しいため、言葉や文面だけでなく、日々の行動を通じて浸透させることが重要です。これは少し宗教的に聞こえるかもしれませんが、私たちはこの点を大切にしています。時には、社員から突っ込まれるくらいがちょうど良いと思いますね。

 実際に、社員から「それは行動指針と違うんじゃないですか」と指摘してもらうこともあります。裸の王様にならないためにも自由に意見できる環境づくりも欠かせません。

[1] 参考:『企業文化に投資する』(福島良典、2022年10月3日、日経COMEMO)

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考えをシンクロし、同じ「メンタルモデル」で意思決定できる組織

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この記事の著者

森 英信(モリ ヒデノブ)

就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...

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