日本は「生成AI」のビジネス適用で先行している
生成AI市場はまだまだ拡大しそうだが、IT関連のコストとしては引き続きクラウドインフラやSaaSへの投資もあれば、さまざまなアプリケーション開発、既存オンプレミスシステムの維持管理もあるだろう。守りの投資を攻めに転換できるかは、生成AIが躍進しても変わらない。
また、生成AIを活用したければ引き続きインフラを効率化し、データ活用の基盤を整備する必要もあるだろう。PwCが2023年12月7日に発表した『生成AIに関する実態調査2023 秋』によれば、調査対象の過半数が「今後1年以内に生成AIの本格導入を予定」と回答。既に生成AIを社内外での活用検討に着手との回答は87%にも達している。前回2023年5月の調査では検討中が14%しかなかったため、半年で一気に増えたことがわかるだろう。
加えて、本格導入を検討している企業のうち24%は数億から数十億円の投資を計画しており、具体的な投資額が見えていることからも、ベンダーの動きはさらに活発化しそうだ。
2023年にはOpenAIのChatGPTやGoogle Bard、Microsoft Copilotなどで、企業や個人の多くが生成AIを実際に試し、その価値を理解した。もちろん、著作権にかかわる問題、回答の不正確さなど、懸念は尽きないものの「生成AIにはメリットがある」と判断した企業は多い。
2023年10月26日に発表された、IDCによる『生成AIに関する企業ユーザー動向調査』によると、新しいテクノロジーの導入には慎重な姿勢をみせてきた日本が、生成AIのビジネス適用ではグローバル各国より優勢な状況が見て取れるとしているのは少々意外だ。このまま日本が先行して生成AIの先進国になれるかは不透明だが、2024年は自社ビジネスの向上や業務効率化に向けて、具体的にどのように生成AIを活用すれば良いのかを検討・着手する年となるだろう。
ところで、自社ビジネスに価値をもたらすために“独自のLLM(Large Language Models)”を構築するかと言えば、どうやらそうはならない。LLM構築の動向を見ると、先行してきたOpenAIやGoogle、Metaなど資金が潤沢にある一部企業にプレーヤーは限られそうだ。汎用的な用途向けに高い精度のコンテンツを生成するLLMの構築には、かなり大規模な学習が必要であり、そのためのGPUリソースを確保するためには莫大な資金、具体的には年間で3桁億、4桁億円のコストがかかるからだ。どのような価値が得られるかもよくわからない中、それだけの投資をすると判断できる企業はまずないだろう。
一方で、その状況をチャンスと見て、LLMの構築に取り組む企業や研究機関も見受けられる。国内ではNTTやNEC、ソフトバンク、サイバーエージェントなどが日本語に特化した独自LLMの開発に注力するもOpenAIやGoogleに比べると投資コストに差があり、回答精度の高さで追従できるかはわからないが、日本語特化などの独自価値を見出すことが期待されるだろう。
また、汎用的で高精度な回答ができるLLMを構築することは難しくとも、特定領域のデータを学習させた独自LLMならば、多様なものが登場しそうだ。この場合は、事前学習済みのLLMに専門性の高いデータセットを学習させることで、その領域の知識を得て回答を最適化するような「ファインチューニング」を施すことになる。実際にファインチューニングによって自社のビジネスデータを学習させたいと考える企業は多いが、こちらも多くのGPUリソースが必要となるだけでなく、データサイエンティストといった専門家による試行錯誤も欠かせないため、そう簡単に実現できない。そのため、領域特化型のLLM構築についても専業のベンダーなどが開発することになりそうだ。