注目すべきインドのエネルギー政策
こうした中で、轟木氏はインドのエネルギー市場に注目すべきだと言う。インドが掲げる「ビジョンインディア2047」は、独立100周年を迎える2047年までに、30兆USDの経済規模を持つ先進国に変貌させる道筋を描き、エネルギー自立型国家に転換するという目標を持っており、総額 6兆ルビー(10兆5000億)を投資する構えだ。これに合わせて、2022年に岸田岸田内閣総理大臣のインド訪問では「日印クリーン・エネルギー・パートナーシップ(CEP)」を発表した。
さらにインド市場の特徴として、CNG(圧縮天然ガス)車が売れていることが挙げられる。 2023 年で最初の 9 ヶ月で約 32万台のCNG車が販売され、40%の成長を遂げている。
「インドのクルマの市場はだいたい日本と同じぐらいです。日本が450万台、インドも同じぐらいの新車販売市場ですが、そのなかでCNG車が急速に伸びています。このCNGはバイオメタンの製造プロセスからなり、その多くが牛の糞尿を原料しているのです」(轟木氏)
2030年においても内燃エンジン車が主力である中、バイオメタンは低炭素化に貢献する選択肢となり得る。地域によってはバイオメタンをCNG車に利用でき、特にインドの牛糞からのバイオメタン製造は有望で、保有台数ベースで約80%の乗用車に供給可能とされている。また、CNGおよびバイオメタン車はインドにおいて総保有コストが最も有利であり、メタン(CO2の25倍の温暖化係数)を循環させることで、さらなる温室効果ガスの削減に寄与する可能性がある。
デメリットとしては電気自動車のバッテリーコスト低減により、内燃エンジン車のTCOが不利になることが挙げられる。インドのCNGスタンド不足、バイオ燃料のコスト高、およびCNG車の市場が限定的であるため、自動車メーカーの投資も限られている。
2030年代もBEV以外が主流、e-Fuelが有望
日本ではBEVの販売は進んでいるものの、KPMGのシミュレーションによると、2030年代になっても保有台数ではBEV以外が主流となる。80%以上の乗用車が液体燃料を活用した内燃機関(ICE)で走行していることになる。そこでもう1つの活用の方向性として、内燃機関(ICE)の低炭素化が考えられる。
中でも注目されるのが、e-Fuel(エレクトロ燃料)などの代替燃料だ。これらを電動化技術と組み合わせることで、さらなる低炭素化が期待される。たとえば地域によって偏在する、太陽光や風力といった再生可能エネルギーをe-Fuelへの変換を通じてエネルギー密度の高い液体燃料として貯蔵・輸送する。これにより、既存の化石燃料サプライチェーンと物流ネットワークを活用することで、グローバルに再生可能エネルギー由来の液体燃料を分配することができる。
一方、デメリットもある。エネルギー転換効率がBEVに比べ低く、現段階では化石燃料由来のガソリン・ディーゼルに比べコストが高い。また設備利用率を考慮した総合効率では、BEVとe-Fuelにおいて大きな差が表れないといった指摘もある。