Oracleの80億ドル投資、インフラ投資だけでなく体制強化にも
Oracleは、日本のクラウド・コンピューティングとAIインフラストラクチャの需要拡大に対応するため、今後10年間で80億ドル、日本円で約1兆2,000億円を超える投資をすると発表した。この投資でOCIの日本国内事業を拡大し、日本を拠点とするクラウドの運用とサポートのエンジニアリング・チームを拡充する。また、東京と大阪にあるパブリッククラウドリージョンの国内カスタマーサポートチームと「Oracle Alloy」「OCI Dedicated Region」の国内運用チームも強化するとした。
今回の投資は既存の東京と大阪のクラウドデータセンター拡充はもちろん、生成AI関連のリソース増強も含まれた幅広い投資となる。中でも重点を置くのが、Oracleが進める分散クラウドソリューションに関わるOracle AlloyやOCI Dedicated Regionなど、“顧客サポート体制の強化”だ。投資を強化して体制を拡充することで、日本政府や企業がミッションクリティカルなワークロードをOCIに移行し、ソブリンクラウド(Sovereign Cloud)や“アイソレーションクラウド(Oracle Cloud Isolated Regionによるクラウド利用の意)”として使い続けられるようにする。
日本開催のイベントに初めて登壇したOracle CEO サフラ・キャッツ氏は、世界中で生成AIに対する熱気が高まる中、日本もその例外ではなく、そこに大きな投資をすると言う。一方、政府や企業はクラウドを活用する上でセキュリティも極めて重視しており、そこが犠牲になるならばクラウド化を諦めるケースも少なくないとも指摘する。「重要でクリティカルなデータは国内に置きたい。また、そのようなデータはクラウドベンダーが運用するマネージドサービスの中にも置きたくないのです」とキャッツ氏。
そこで顧客の手元にデータを置き、オペレーションも自国内で完結するソブリンクラウドが求められる。欧州や米国でOCIによる実績を多く積んできた経験から、政府や防衛などのトップシークレット・データは、インターネットにも接続しないアイソレーションクラウドも求められると指摘する。データやシステムの運用を分離し、安全に運用したいとの高度な要求でもOCIさえ選択すれば、政府や企業は妥協する必要はないとキャッツ氏。日本は40年にわたりビジネスを行ってきた特別な場所であり、顧客も多い。それだけに今回の巨額投資は極めて重要だと強調した。
「OCIと他のクラウドサービスの違いは『セキュリティ』です。どこの国でもセキュリティを犠牲にしてクラウドを利用することはありません。OCIにはDedicated Regionがあり、ソブリンやアイソレーテッド・リージョンもあります」(キャッツ氏)
こうしたミッションクリティカルな要件にも応えられるように体制を拡大することこそが、投資における最大の狙いだ。その上で、今回の投資額は最低限であり、日本の大きな需要に対応するためには、より大きな額になる可能性もあるという。
Oracleは他リージョンにも巨額な投資をしており、日本には東京と大阪にリージョンを設けるなど、基本的なサービス基盤は出来上がっていた。その上での大きな投資となることが、1つの特長だろう。これからリージョンを設けていく地域では、ゼロからデータセンターを立ち上げる投資が必要だ。規模の小さい国であれば、アイソレーテッド・リージョンは必要ないかもしれない。その中、日本には需要があると考えての投資であり、「多くの国・地域に投資は続けますが、今の段階で日本以上の投資はありません」とキャッツ氏は繰り返す。
先日、AWSによる日本への巨額投資が話題となったが、その内訳はインフラの拡充だと筆者は理解している。今回のOracleによる投資はインフラ拡充もあるが、ソブリンクラウドやOracle Alloyなどのサポート体制強化を掲げている点が大きな違いだ。インフラの増強はある意味で固定資産への投資だが、サポート体制の強化は内部人材の増強であり、日本オラクルの人件費が増えることもつながる。
今後、この投資額に見合うだけの人材を採用できるのか。特にソブリンクラウドやOracle Alloyなどの領域に対応できる人材ともなれば、特有なスキルも求められるため人材も限られるだろう。日本オラクルの役員からも、あらためて国内人材の採用を強化するとの話は聞こえており、投資成果を得るための動きは相当な苦労をともないそうだ。
加えて、実際に人材が採用できたとしても、日本オラクルとしては人件費の増大が当面続くことにもなる。当然ながら、それに見合っただけの売り上げと利益率を確保しなければならない。固定資産として減価償却できるインフラへの投資よりも、内部サポート体制強化への投資のほうが、日本のクラウドビジネスをドライブする上では、よりシビアな成果を求められそうだ。